2015 Fiscal Year Research-status Report
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26870502
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
厚井 聡 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 講師 (60470019)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | カワゴケソウ科 / 茎頂分裂組織 / 根端分裂組織 / 根の葉状化 / ラオス / タイ / 新種 |
Outline of Annual Research Achievements |
維管束植物の体制は根・茎・葉の3つの基本器官からなるが、茎と葉が軸状から葉状まで形態的多様性が非常に高いのに対し、根の形態は軸状であり進化的に非常に保存されている。しかし、渓流中に適応進化したカワゴケソウ科の根は、「岩盤への固着」「茎・葉・花の形成」「光合成」という新規機能を獲得し、葉に匹敵する扁平な器官へ形態進化を遂げている。葉も祖先的な軸的器官から進化したが、葉とカワゴケソウ科の扁平な根で共通の進化機構が存在するのかは不明である。本研究は、カワゴケソウ科で起こった軸状から葉状への根の形態進化の過程と機構を、分裂組織の比較により解明することを目的とする。 ラオスのカワゴケソウ科カワゴケソウ亜科について、野外調査、分子系統解析、比較形態観察を行い、葉状の根をもつ新種2種、葉状の根をもつ新産種1種、リボン状の根をもつ新産種1種を見出し、論文発表した。また、ラオスのトリスティカ亜科についても同様の解析を行い、帯状の茎をもつが根を欠く新種3種と新産3種、軸状の茎と軸状の根をもつ新種4種と新産4種を見出し、論文発表した。さらに、インドにおいて、葉状の根をもつ新種1種を見出し、論文発表した。これらの研究から、根の葉状化の進化過程がより詳細に明らかになり、これまでの研究と合わせると根の葉状化は独立に4回生じたと推定された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
根の分裂組織の構造を遺伝子レベルで明らかにするために、根の形態形成に関わる遺伝子のクローニングを行い、新たに葉状の根をもつ種からPHABULOSA相同遺伝子を単離した。一方、軸状の根をもつ種からは単離を行っている段階である。今後は、当初の予定通り、これらの遺伝子の発現解析を行っていく予定である。 ラオスで見つかったカワゴケソウ亜科の1種が、根や茎と比較が難しい器官をつけていることが明らかとなった。アジアのカワゴケソウ亜科の根は外生分枝し、葉が根から内生発生する。しかし、この種の軸器官は外生分枝せず、根から内生発生した葉の一部が根に転換しているように観察された。茎頂分裂組織が根端分裂組織へと転換する現象がトリスティカ亜科で観察されていることから、器官のアイデンティティが転換する新たな事象である可能性がある。今後は、この特異な器官を詳細に解析することで、軸器官の進化について新たな知見を得られると期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はクローニングした遺伝子からRNAプローブを作成し、軸状の根と葉状の根における遺伝子発現パターンをin situ hybridization法により解析・比較し、根の葉状化における分裂組織の構造変化を遺伝子レベルで解析する。また、カワゴケソウ亜科で独立に4回起こったと推定される根の葉状化について、詳細な解剖学的観察がされていないアフリカの系統について比較形態学的解析を行って形態進化の過程を解明し、他の系統で起こった根の葉状化の進化過程と比較することでカワゴケソウ科全体での根の葉状化過程を考察する。さらに、ラオスで見つかった奇妙な軸器官をもつ種を詳細に解析し、軸器官の発生や相同性を解明し、器官のアイデンティティの転換について検証する。そして、これらの結果をまとめて、カワゴケソウ科の根の葉状化に関する論文を発表する。
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Causes of Carryover |
組織解剖学的観察に必須のミクロトームが不調のため、そのメンテナンス費または新規購入費にあてる予定で物品費を計上していたが、今のところミクロトームを使用できていることから、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
カワゴケソウ科の培養設備および形態観察用の機器の購入と、海外(タイ・ラオスなど)でカワゴケソウ科のサンプルを採集するための旅費に用いる予定である。
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Research Products
(6 results)