2016 Fiscal Year Research-status Report
現代文学における「地域」と「開発」をめぐる系譜学的研究
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26870514
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
渡邊 英理 静岡大学, 地域創造学環, 准教授 (50633567)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 地域 / 開発 / 差別・被差別 / 文学 / ジェンダー / 世界文学 / 日本語文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度までの成果を踏まえ、和歌山県新宮市の被差別部落出身の作家、中上健次の文学が描く「同和行政事業」の開発をさらに追究するとともに、「奄美二世」の女性移民作家、干刈あがたの文学が描く開発、沖縄の現代女性作家、崎山多美の文学が描く開発と比較対照を行った。まず中上健次文学の開発の表象と思想特性を明らかとし、その成果を、大学共同利用機関法人人間文化研究機構、国際日本文化研究センター(日文研)共同プロジェクト「戦後文化再考」(代表 坪井秀人日文研教授)でのパネル「暴力、記憶、公共性――高度経済成長期の思想文化」(2016年10月)にて公表した。また中上文学の開発をめぐる思想を世界文学の中の日本語文学という視点で検討し、世界史的な文脈で位置付けを行い、成果の一端を熊野大学夏季セミナー「世界文学の中で考える、女性文学者が読む中上健次」の中で公表した(2016年8月)。 次に、中上健次文学の開発の特徴を干刈あがたの文学の開発と対照し、1950年代の首都圏郊外の開発の表象と70年代末から80年代初頭の地方都市の開発の表象との差異と共通性をジェンダーの変数を入れつつ比較考察した。この成果は「社会文学」のアメリカ特集号(2017年3月)にエッセイ「戦争と開発」を寄稿し公表した。 さらに沖縄の現代女性作家の崎山多美の文学が描く再開発の考察を行い、さらなる比較対照を進めた。本土より長くアメリカ占領下にあり基地の街を有する沖縄は、本土とは異なる位相で開発/再開発を経験している。沖縄という磁場における特殊で固有な開発/再開発の経験を描く文学として崎山多美の文学を位置づけ探求するとともに、本土の開発/再開発を相対化する視座を設け、開発/再開発を被る周辺的な地域に共通する普遍的な経験や思想のあり方に光をあてることも試みた。この成果は、現在編集中の論集に寄稿し、2017年度に公刊予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
差別・被差別や、階層という主題を前景化する中上健次の文学をジェンダーという変数を加え対照化し、「地域」と「開発」をめぐる現代文学を多元的な視座で考察することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果を踏まえ、ジェンダー的な考察をさらに進めるとともに、「地域」と「開発」をめぐる現代文学の思想性を、同時代の世界史的な文脈や思想状況と対照し、その内実を明らかとし、位置付けるという作業を深めていく。また、それらの考察を総合化し、「地域」と「開発」をめぐる現代文学の系譜化を行う。
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Causes of Carryover |
中上健次の文学をはじめ、本研究が対象とする文学テクストが描く開発の表象や思想の特性を明らかにするために世界史的な文脈の中での考察をさらに進め、位置付けを行う必要がある。そのために行う予定だった海外調査を、成果公表の渡米と合わせて2017年度に実施することになったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記調査を、アメリカにて実施する。アメリカの公民権運動や黒人解放運動の流れをくむ思想や文学との関係性や、作家が参加したアメリカの作家会議での知的交流の影響などについて、現地に趣き資料調査、聞き書きなどを行う予定である。
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Research Products
(4 results)