2014 Fiscal Year Research-status Report
量子磁性体・誘電体におけるレーザー誘起非平衡定常状態の理論研究
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26870559
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
佐藤 正寛 青山学院大学, 理工学部, 助教 (90425570)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 非平衡系 / レーザー / フロケの定理 / 電気磁気結合 / スピン流 / ジャロシンスキー守谷相互作用 / トポロジカル相 / マヨラナフェルミオン |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は以下の成果を得ている。 (1)量子磁性体における円偏光レーザーによる非平衡磁化過程についての理論:我々はモット絶縁体型量子磁性体に円偏光レーザーを照射することで、一様静磁場なしで、磁化曲線を照射時間の関数として再現できることを理論的に明らかにした。この実現の為には、(a)レーザー周波数を徐々に増加させること(チャーピング)、(b)磁性体の磁気異方性、(c)ある程度のレーザー磁場強度の3つの要素が必須であることも示した。この予言は、強力な静磁場を必要としない、標準的な実験室で実現可能な新しい磁化の生成・制御方法の提案と言える。この成果は雑誌Phys. Rev. B90, (2015)で発表済みである。 (2)量子マルチフェロイクスにおける円偏光レーザーによるスピン流の生成・制御についての理論:我々は、ベクトルスピンカイラリティ(隣接2スピンの外積)が局所的電気分極と強く結合する標準的なマルチフェロイック系(強誘電磁性体)に円偏光レーザーを照射すると、電気分極と電場の結合とゼーマン相互作用の相関効果により、系に新しいジャロシンスキー守谷相互作用が誘導され、らせん型磁気秩序が発生し得ることを予言した。らせん秩序はスピン流の生成を意味しており、従って、我々のこの予言は、新しいスピン流の生成・制御方法の提案と見做すことができる。現在、この成果についての論文を作成中である。 (3)キタエフ模型におけるレーザー誘起トポロジカル量子相の予言:ハニカム格子キタエフ模型は強いスピン軌道相互作用をもつモット絶縁体の低エネルギー模型と解釈できる。この系の基底状態は厳密に無秩序スピン液体であることが知られており、近年大変注目されている。我々は、この系に円偏光レーザーを照射すると、端にマヨラナフェルミオン流が流れるトポロジカル・スピン液体状態が実現可能であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、初年度は(1)量子磁性体における円偏光レーザーによる非平衡磁化過程についての理論を構築することが目標であった。しかしながら、研究実績の概要欄に記した通り、(1)に加えて、(2)マルチフェロイクス系と(3)ハニカム格子キタエフ模型においても質的に新しい非平衡量子現象の予言を与えることができた。 これは、共同研究者や指導している青山学院大学大学院生と密に研究議論を重ねてきたことと、実験研究者と積極的に情報交換をしてきたことによると考えられる。 今後も、共同研究者達と効果的な議論を展開することで、質の高い成果を目指していく。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、レーザー中の量子多体系(特に磁性体・マルチフェロイクス・自由電子系)における新しい非平衡現象やレーザーによる物理量の制御方法についての理論解析を進展させる。 解析手段においては、フロケの定理や1/Ω展開(Ωはレーザー周波数)に基づく解析的手法と数値対角化や密度行列の運動方程式の数値計算などをうまく組み合わせることで定量的な予言を目指していく。 一方、光物性の実験家や理論家との議論の場を多数設けることで、現実性の高いセッティングに基づいた理論研究を追求していく。
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Causes of Carryover |
国際会議などにより海外出張する際の必要費用には、飛行機チケット、ホテルの宿泊代、レジストレーション代、その他の交通費など、会議の開催間際や現地に行ってみて初めて確定する者が多い為、当初の予想から必要費用がずれることがある。また、科研費研究を効果的に推進する上で出席すべき国内会議や研究打ち合わせが急きょ計画され費用がかかることもある。 これらの理由により、当初計画した初年度の経費から実際の使用額がずれてしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
初年度使用額が予想より低くおさまったため、2年目に使用できる予算が9万円ほど増額する。この増額分を、科研費研究が効果的に推進できるように、研究打ち合わせや専門書の購入に充てる予定である。
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