2014 Fiscal Year Research-status Report
バクテリアのゲノムデザインに向けた、複製制御機構の開発
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26870575
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
河野 暢明 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任助教(常勤) (90647356)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 枯草菌 / ゲノム構造 / ゲノム複製 / 対称性 / 逆位 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度ではゲノム構造のみを改変した遺伝子改変を伴わない変異株の作成を行い,複製挙動との関係性を明らかにする技術開発及び,ゲノム構造が複製挙動に与える影響の調査を行った.ゲノム構造改変株の作成では,対象種に遺伝学的手法が確立されている枯草菌を用い,ゲノム構造の改変にはne-eoシステムを用いた.ne-eoシステムとは相同組換えを利用したゲノム逆位技術であり,プラスミドの複製開始点を利用する事で対象領域を分断後独自複製させる事で第二染色体化する事も可能である.この技術を用いて研究代表者は枯草菌の約2Mbpに渡る逆位変異株10株と,300-800Kbpの分断変異株2株の作成に成功した. 次にゲノム全体の複製挙動を観察するために,大量並列シーケンサーを用いた技術の開発を行った.増殖がある程度早い環状染色体を持つバクテリアでは,対数増殖期に複製開始点と終結点付近との間でゲノムのコピー数に大きな差が生じる事が知られている.大量並列シーケンサーを用いた複製挙動観察は対象種のゲノムDNAを大量にシーケンスし,リファレンスゲノムにマッピングする事で,このコピー数差を計算し,複製開始・終結点を観察する手法である.本年度ではまず枯草菌に適した本手法の条件を決定する為に,コピー数差が顕著に現れるサンプリング時期やDNA抽出量,コピー数差を検出する事が出来るシーケンサー及びシーケンスカバレッジに関して検討し,プロトコル整備を行った.シーケンシングは主に外注し,データ解析は研究代表者が行った. 最期に複製挙動観察技術を用いて,構築したゲノム構造改変株の複製挙動を観察し,ゲノム構造と複製挙動の関係性を理解する事ができた.その結果,複製終結関連因子を利用する事で,人工的に複製挙動を操作する事に成功し,本研究成果をJournal of Molecular Biology誌に発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の研究計画では「大規模なゲノム改変株の構築」及び「複製機構観察のための複製プロファイル技術の開発」を挙げていた.「大規模なゲノム改変株の構築」では約2Mbp以上の領域を逆位させた変異株及び,800Kbp以上の領域を第二染色体化させた変異株の作成に成功した.「複製機構観察のための複製プロファイル技術の開発」では枯草菌の複製開始・終結点を観察するのに相応しい条件検討をサンプリング時期,DNA抽出量,そしてシーケンスカバレッジに関して行い,解析パイプラインの開発を行った.その結果,枯草菌の複製プロファイル技術を確立する事ができた. これらに加え,実際にゲノム構造改変株に対して複製プロファイル技術を用いてゲノム構造と複製挙動の関係性を解明した.またその結果をもとに,人工的に複製挙動を制御する技術も開発する事が出来た.この研究成果は「人工的な複製挙動制御」は平成27年度の研究計画の一部を含んでいる. 以上の成果に加えて,国際学術誌に一報発表したため,本年度の達成度は当初の計画以上に進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
大規模なゲノム変異株の構築及び複製プロファイル技術の確立が終了したため,平成27年度では主に「変異株における複製挙動観察及び,非対称なゲノム構造における複製の安定化実験」及び「ゲノムデザイン」を行う予定である. 平成26年度の成果により,枯草菌のゲノム構造改変株を対象に,複製終結点関連因子を操作する事で人工的に複製挙動を制御する事ができるようになった.しかしながら,ゲノム構造改変株は,複製挙動が正常に戻ったとしても増殖効率が野生株と同等になる事は無かった(Kono, et al., 2014).これは複製挙動の変化に伴う遺伝子発現の影響が考えられる. そこで平成27年度ではまず,枯草菌のゲノム構造改変株を対象に複製挙動と発現量の関係性を調査する為に,発現量解析を行う.これにより,複製挙動を人工的に制御した事で引き起こされている不自然なゲノム状態を観察することが出来るため,ゲノム構造と複製挙動の関係性に増殖効率という新たなパラメータを追加した多変量解析を行っていく. 次に,得られたゲノム構造,複製挙動,そして増殖効率の関係性をもとに,複製機構を制御する事で完全なキメラゲノムの完成を目指す. これまでの先行研究では,ゲノム構造やそれによる複製挙動が不安定になるという理由から,完全なキメラゲノムは作成されておらず,片方のゲノムを数断片に分割して挿入するだけに留まっている.そこで,人工的な複製挙動制御技術を用いる事で,二つのゲノムが半分ずつ連続して融合しているキメラゲノムの構築を行う.この技術が確立されると,人工的に合成された大規模な長鎖DNAをゲノムに安定してクローニングする事が可能になり,ゲノムデザインの大きな礎となるだろう.
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