2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26870579
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
武田 利勝 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (80367002)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 植物性 / 自然哲学 / 人間学 / 啓蒙主義 / ロマン主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題応募時に記述した通り、「啓蒙主義からロマン主義へと至る自然哲学的人間学における植物の表象」を調査することが平成26年度における本研究の目的であった。その意図は、18世紀における「全的人間」の理念に従った「人間学」がいかにして自然的事物としての「植物」を学的対象としたかを辿ることであった。本研究はまずヨハン・ゴットフリート・ヘルダーが1780年代中盤から90年代初頭にかけて執筆・公刊した、彼の主著ともいうべき『人類の歴史哲学考』を読解した。本書の詳細な検討を通じて明らかとなったのは、ヘルダーの思想において「植物」がもつ多義性である。自然の階梯においてそれは低次の位階にありながら、成長・生成を本質とする自然(能産的自然)を全的に体現する一種の象徴性を有している。さらに植物の含む無限高昇の可能性は、人間(人間性)における「直立性」をも根源的に規定するものであり、「直立性」の志向する先に「理性」という理念がある以上、植物は理性を目指す有機的本質とみなされるのである。 ヘルダーのこうした植物思想によれば、植物は存在論的には理性からもっとも遠い有機体でありながら(「理性の他者」)、同時にしかし、被造物全体が(人間性を通じて)理性に至るために欠かせない生成原理であることがわかる。いわば異質なものを己の本質のうちに含むこと(混淆性)を生命原理とするこの逆説は、本研究の方向性をむしろ推進させる重要な知見を与えるものであり、この研究については九州独文学会(4月25日)において報告する予定となっている。 なお本年度中には18世紀から19世紀にかけての「植物霊魂」についての種々の学説も研究する予定であったが、一次文献の収集も含めてほとんど進捗が見られなかったのは遺憾とするところである。ただし目下のところ、本研究に対して自然科学的な観点を積極的に導入する必要をそれほど感じていない。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2014年度(平成26年度)より勤務先が変わり、研究環境の構築に時間を要したことが最大の理由の一つであるが、それ以外の理由としては: 1)研究分担者として参加した他のプロジェクトの準備に時間が割かれたため 2)担当科目での授業内容と当研究課題の内容との相違点が多々あるため、授業の充実にむけて本研究への従事時間を減少させざるをえなかった。 以上の通りである。
|
Strategy for Future Research Activity |
申請時の推進方策では記述しなかったが、本研究の充実のためにユングにおける「象徴としての樹木」を視野に入れる必要を感じるようになった。本研究が全体的に描出しようとする植物性は、「理性」とその他者を包括するものとしての有機体をさすが、ユングの思想において、樹木もまたやはり無意識と意識を結びつける表象だからである。 この象徴思想を臨床心理学の領域においてではなく、植物的自律性という巨大な系譜のなかで理解することには十分な意義があると考える。
|
Causes of Carryover |
予定していた学会出張(一回分)が学内業務のため中止となったため
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度の研究会参加費として使用する予定
|