2015 Fiscal Year Research-status Report
作用素環論を用いた距離空間の大規模構造に関する研究
Project/Area Number |
26870598
|
Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
酒匂 宏樹 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (70708338)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 距離空間の幾何学 / 作用素環 / 非可換確率論 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は作用素環論の距離空間の幾何学への応用について進展が得られた。さらに非可換確率論の研究との関連も見出されて、新たな発展の契機を得た。 確率論の主役はランダムに変化する量を記述する確率変数である。古典的な確率論は確率変数を関数として基礎付けされている。関数が定義される空間を標本空間もしくは全空間とし、確率変数が可測となるような完全加法族の構造が標本空間に導入される。 その一方で非可換確率論は確率変数を代数系の元として捕らえる。このような研究は、量子現象に現れる物理量を確率変数として扱いたいという動機に由来している。量子物理学では同時に確定しない二つ以上の物理量について考察することがある。このような二つ以上の物理量は不確定性関係にあるという。不確定性関係にある確率変数を考える場合には、確率変数として関数を採用することは不適当なのである。なぜならば、二つの関数を確率変数としてみなすとき、標本空間の元を指定すれば、二つの確率変数の値は同時に確定してしまうからである。したがって、量子論を意識した確率論としては非可換確率論を考えるのがより自然である。 また量子物理学が作用素環そして作用素環のヒルベルト空間上の表現と深く関連することがかねてから知られている。ここで、作用素環論、量子物理学、非可換確率論を一体として捉えることの重要性が見えてくる。 本年度は、上の三つに加えて、距離空間の幾何学が関係することがわかった。非可換確率論では、確率変数相互の独立性を議論するときに、自然と離散距離空間の構造が現れてくるからである。本研究で、作用素環論と距離空間の幾何学の対応が見出されているが、非可換確率論の研究での洞察を交えながらさらに発展する契機が得られた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
作用素環の従順性と距離空間の性質の対応についてはすでに結果が得られている。平成27年度はさらに、非可換確率論と距離空間の幾何学、作用素環の関連について調べた。 非可換確率論では複数の確率変数間の関係性として、古典的独立性、自由独立性、単調独立性など様々な種類の独立性を考えることができる。実は、それぞれの独立性に離散幾何学的な距離空間が対応することが知られている。この距離空間はどれもProperty Aというよい性質を満たしており、作用素環的な近似性質に対応していることが、本研究によってすでに発見されている。 今後の更なる展開を目指して、非可換確率論に現れる距離空間の構造に注目するという方針が得られた。さらに実数直線上の測度に対して、相互作用フォック空間という構造が現れることにも注目した。相互作用フォック空間とは自然数を基底とする前ヒルベルト空間に、生成作用素、維持作用素、消滅作用素、という三つの作用素を備えた、数学的構造である。 ヒルベルト空間に作用する自己共役作用素と、単位ベクトルが与えられるごとに、実数直線上の測度が与えられる。そこから与えられる生成作用素、維持作用素、消滅作用素の総和は最初に与えられた自己共役作用素である。このように作用素が与えられるごとに自然数という、非常に簡単ではあるが、一つの離散距離空間と、それに付随する相互作用フォック空間が与えられるのである。 平成26年度までの研究では、最初に距離空間が与え、それに付随する作用素環の性質を調べていた。平成27年度ではいわば逆の方向を目指す洞察が得られたわけである。一つの自己共役作用素から、自然数という単純な距離空間が得られるわけであるが、二つ以上の自己共役作用素からはさらに複雑な距離空間が得られる。
|
Strategy for Future Research Activity |
前項において、二つ以上の自己共役作用素からはさらに複雑な距離空間が得られる、と述べた。平成28年度以降はまずこの事実に目を向けたい。 自由独立な二つの確率変数が得られたときに、自然と二分木という距離構造が得られる。また単調独立な二つの確率変数が与えられたときには、自然とくし型の距離構造が得られる。作用素の和がどのような性質を持つのか、また得られる確率分布がどのようなものなのか調べることが重要であるが、そのときに二分木やくし型の距離空間の構造が影響する可能性がある。その点について探求したい。
|