2014 Fiscal Year Research-status Report
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26870621
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
小島 陽子 日本大学, 理工学部, 研究員 (30548095)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | アンコール王朝 / クメール / 王道 / 沿道遺跡 |
Outline of Annual Research Achievements |
アンコール王朝時代の古道ネットワークを支えた建築技術はいかなるものか。本研究は、12世紀後半から13世紀にかけてジャヤヴァルマン7世王によって整備されたとされる「灯明の家」や「施療院」など、古道沿いの遺跡を対象としている。碑文によれば、「灯明の家」と「施療院」は、国家事業として王国内にそれぞれ121か所、112か所整備されたとあり、現在確認されている遺跡は、いずれも建築の基本形状が類似することが知られている。 本研究では、ほぼ同時代に整備された同形状のこれらの建築の構成を、これまで継続してきた都城の寺院における技術史的な研究成果を軸に比較検討し、各遺跡の立地や配置とあわせて考察することにより、各地域の技術の違いをよみとることを目的とする。 平成26年度は、カンボジアのアプサラ機構アンコール地域外遺跡局副局長を招聘し、調査地の現状や踏査ルートを把握した上で調査計画を作成し、「灯明の家」10棟について実測調査を行った。各遺跡では平面・立面・断面図など基礎資料の作成をすすめた。収集したデータをもとに、技術的な視点から各遺跡の平面・立面・屋蓋の構成の分析を行った結果、「灯明の家」は、都城の寺院にみられるような主室と前室を出入口を介してつなぐ建築ではなく、両室を一続きとし屋蓋形状で室の違いを示した空間を分ける建築であることが明らかとなった。このような寺院と異なる同形式の建築を広範囲に多数造営した背景には、都城で発達した建築技術を応用し、計画や施工上の簡明な基準を設けたと想定する。また、各地方において、屋蓋の構成に違いがみられることも明らかとなった。これは、地方の技術差を読みとく上で重要であると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の調査対象である遺跡は、古都アンコール(現カンボジア王国シェムリアップ州)から各地方都城へのびる古道沿いにある。現在、古道には草木が繁茂し、車両が通行できない箇所もみられる。このため、当初は、調査地の現状や踏査ルートの把握、また調査許可などの調査準備に時間を要すると思われた。しかし、研究期間の早い段階で、当該調査地域の遺跡担当者を招聘して情報収集と協力を得ることが出来、夏期調査を予定通り行うことができた。現地調査で実測を行った建物が当初の予定数より少なく、論文執筆もやや遅れているが、現地担当者との良好な関係を築くことができ、今後も継続して調査が可能であることから、当初の予定を達することができると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度も継続して沿道遺跡の実測調査を行い、平面・立面・断面図などの基礎資料の収集とデータ化を進める。収集したデータをもとに、技術的な視点から各遺跡の平面・立面・屋蓋の構成の分析を行い、学会論文としてまとめる。 さらに、これまで検証を行ってきた都城の寺院の寸法構成の分析手法を援用し、各遺跡の平面及び立面の寸法構成を検証する。その上で、各遺跡の基本構成や各部の寸法構成について整理し、それぞれ共通点や相違点について、各遺跡の立地や配置とあわせて検証し、各地方の技術の差について考察を行う。成果は学会論文として投稿する。
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Causes of Carryover |
研究初年度である平成26年は、既往研究及び調査報告に基づき、沿道遺跡の基本的な情報の整理と分析に重点を置いたため、現地調査が当初の予定回数より少なく、旅費の支出が抑えられたために生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当該研究費は、平成27年度に効率よく実測調査及び資料整理を進めるため、実測補助者や資料整理補助者への謝金などに使用する。
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