2014 Fiscal Year Research-status Report
長鎖非コードRNA H19の膵癌における作用機序の解明と、標的治療に向けた研究
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26870622
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Research Institution | Nippon Veterinary and Life Science University |
Principal Investigator |
吉村 久志 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 助教 (70645241)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | H19 / 膵癌 / long non-coding RNA |
Outline of Annual Research Achievements |
近年のゲノム解析技術の革新的な進歩により、200塩基以上の長さを持ち蛋白質を翻訳しないRNA(長鎖非コードRNA )が、生体内にはかなり多く存在することが明らかとなり、その機能が注目されるようになった。我々は以前の研究でヒト膵癌細胞株PANC-1を免疫不全マウスの脾内に移植し、その後形成された肺転移巣から新たな細胞株PANC-lungを樹立した。PANC-lung細胞はPANC-1細胞に比べて、in vitro試験において高い遊走能を、またin vivo試験において高い転移能を示した。そこで今回、PANC-lung細胞とPANC-1細胞の間の遺伝子発現の違いをマイクロアレイにより網羅的に調べたところ、長鎖非コードRNAの一つであるH19がPANC-lung細胞において高発現していることが判明した。また正常膵管上皮由来細胞株に比べて、9つ中5つの膵癌細胞株ではH19の発現が著しく高かった。そこでPANC-1細胞にH19発現ベクターを遺伝子導入しH19の発現レベルを上昇させたところ、コントロール細胞と比べて細胞増殖能は変わらなかったが、細胞遊走能が亢進した。一方で、PANC-1細胞にH19に対するshort hairpin RNAを遺伝子導入しH19発現レベルを低下させたところ、細胞増殖能には変化がなく、細胞遊走能が低下した。さらに、PANC-lung細胞にH19に対するsmall interfering RNAを導入し、一過性にH19の発現を低下させたところ、やはり細胞増殖能は変わらなかったが細胞遊走能が低下した。このように長鎖非コードRNA H19は膵癌の実験的転移巣由来の細胞株で高発現しており、膵癌細胞の遊走能に関与している可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度までの研究でH19が膵癌細胞の遊走能や転移に関与していることが示唆されたため、膵癌の治療標的として有用である可能性が高まった。これらの研究の一部は国内やアメリカの学会で発表し、良い評価を得ている。しかし、昨年度の途中で研究代表者の所属研究機関変更があったため、計画していた実験の一部でまだ実施できていないものがある。今年度は新しい所属研究機関で実験環境を整え、昨年度予定していた実験の一部と今年度の計画分の実験を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞実験においてH19が膵癌の進行を促進する可能性が示されたので、本年度は臨床膵癌検体において定量的RT-PCRとin situ hybridization法によりH19の発現と局在を調べ、臨床病理学的因子との相関性を検討する。これにより将来的なH19標的治療に向けて、臨床例におけるH19陽性率のデータが得られる。昨年度の研究代表者の所属機関変更により、計画していた材料や機器の一部で使用できないものがあるが、共同研究により対応する。
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Causes of Carryover |
昨年度は研究代表者の所属研究機関変更があったため、計画していた実験の一部が実施できず、その分の助成金を繰り越すこととした。また予定していた学会出張の一部も中止したためその分の旅費を今年度の物品費として使用することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、繰り越した助成金を使用して昨年行えなかった実験の一部を行うとともに、今年予定している臨床検体を用いた定量的RT-PCRとin situ hybridization法によるH19発現の検討を滞りなく実施する。
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