2015 Fiscal Year Research-status Report
実証主義的家族――ベルティヨン家と19世紀末フランスにおける実証主義の具体的展開
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26870651
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
橋本 一径 早稲田大学, 文学学術院, 准教授 (70581552)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 思想史 / 実証主義 / ベルティヨン / 写真史 / 表象文化論 / 身体論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、①19世紀末フランスにおける実証主義の展開の思想史的研究、および②ベルティヨン家についての伝記的研究の二点を、主たる目的としている。本年度は、これらの二点について、それぞれ以下のような研究実績を挙げた。 ①すべての自然現象を物理法則によって説明することを目指したコント的な実証主義からすると、病気とはすべて何らかの器官の変調に起因することになる。この変調はしばしば患者の自覚に先立つものであり、今日では本人が何らの自覚症状を持たないのに、医師により病気を宣告されるというような例も珍しくない。本研究は、このような「病人」と「病気」との乖離を、近代における「病気」の概念の大きな変化と捉え、この変化を身体論的な観点から捉え直す連載を、医学雑誌上で開始した。なおこの研究は「身体」と「物」の関係をめぐるより広汎な思想史的研究へと展開する予定である。 ②前年度に引き続き、司法写真の発明者としてのアルフォンス・ベルティヨン関わりの深い、19世紀の写真技術の歴史についての研究を発展させた。本年度はとりわけ、三脚の歴史という、これまでの研究でまったく着目されてこなかった歴史の記述に着手し、論文および国際学会における発表として公にした。 上記の①および②として展開させてきたこれまでの研究は、「身体」「物」「イメージ」をめぐる思想史的な研究に統合される予定である。そこではジョルジュ・ディディ=ユベルマンやハンス・ベルティンクの提唱する「イメージ人類学」が重要な参照軸となる。この展開の準備として、本年度はベルティンク『イメージ人類学』についての書評論文を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の二つの目的である、①19世紀末フランスにおける実証主義の展開の思想史的研究、および②ベルティヨン家についての伝記研究にしたがって、これらの二点についてそれぞれ論文および学会発表の形で成果を公にできたことは、本研究の順調な進捗状況を証拠だてるものである。一方でこれらの二点をいかに統合するかは、研究開始当初からの課題であった。しかし本年度は、この二点にわたる研究を、「身体」「物」「イメージ」をめぐる思想史的研究へと発展的に統合する手がかりが得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
方法としては、これまでの年度と同様に、長期休暇中におけるフランスでの集中的な文献・資料調査ならびに、その他の期間における論文執筆や学会発表によって研究を推進する。内容としては、上記に記した二つの目的のうちの二点目に関して、写真史にかかわる研究を、本年度も続行する予定である。これに関して、当初ベルティヨン家の伝記的著作に結実させることを考えていた刊行予定を、写真史に焦点をしぼった著作にする変更することも視野に入れている。すでに出版社は内定しており、本年度中に執筆を終わらせ、来年度中に刊行することを予定している。 また上記の二点を統合する思想史的な研究は、来年度より新規の研究として本格的に取り組む予定であるが、本年度はその準備として、主に「フェティッシュ」概念の思想史的な研究に着手し、19世紀における人類学的な概念としてのこの概念の成立と、精神分析におけるその展開を跡づけることにしたい。
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Research Products
(5 results)