2015 Fiscal Year Research-status Report
地域共同体を基盤とした渇水への制度的適応に関する研究
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26870690
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
篭橋 一輝 南山大学, 経済学部, 講師 (60645927)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 水融通 / 渇水 / 讃岐平野 / 生産的基盤 / 包括的富 / 代替可能性 / 本質的自然資本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、讃岐平野で1994年に実施された水融通が持続可能な発展論においてどのように理論的に位置づけられるかを中心に分析した。水融通は渇水への制度的適応策として位置づけられるが、渇水への適応プロセスと福祉水準(well-being)との関連性はこれまで必ずしも明確にされてこなかった。このことが、水資源の再配分論と水融通との原理的な差異を把握する上での一つの障害となってきた。そこで本年度は、持続可能な発展論の理論的基礎を築いたDasgupta (2004)の「生産的基盤」(productive base)や「包括的富」(inclusive wealth)の枠組みを用いて、水融通を理論的に位置づける作業を行った。 Dasgupta (2004)の枠組みを援用して水融通の原理的特質を検討した結果、水融通は各利水主体の福祉への不可逆的な損失の発生を回避するという目的の下で、人工資本や人的資本、知識ストックを総合的に活用することによって渇水への適応を図る制度であることが分かった。水融通は①用水間の融通、②水系間の融通、③水系内の融通に分類することができるが、用水間/水系間の水融通は自然資本の代替を促進する制度変化として考えることができる一方、水系内の水融通は自然資本と他の資本資産の代替を促進する制度変化として解釈できることが分かった。渇水時の水資源は本質的自然資本(critical natural capital)の性質を強く帯びると考えられるが、渇水への実際の適応プロセスを見てみると、配水方法や利水方法を柔軟に変更することによって、資本間の代替可能性を高めようとする行動がとられていた。讃岐平野の水融通はこれらの理論的特質を持つ点で、水資源の再配分論との違いがある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
水融通の理論分析に時間がかかり、実証分析に必要なアンケート調査の実施が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの理論研究で得られた論点を盛り込んだアンケート調査を早急に実施し、必要なデータを収集の上、水融通の実証分析を実施する。
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Causes of Carryover |
アンケート調査の実施に遅れがあり、調査票の印刷費や郵送費、データ分析に必要な諸経費が計上されなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
早急にアンケート調査を実施し、実証分析に必要なデータ収集と分析を行う。そのために必要となる経費(印刷・製本費、郵送費、データ入力の委託費等)を適切に支出する。
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