2015 Fiscal Year Research-status Report
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26870696
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Research Institution | Nagahama Institute of Bio-Science and Technology |
Principal Investigator |
西郷 甲矢人 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 准教授 (80615154)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 量子古典対応 / 物理量代数 / 状態 / 量子確率論 / 逆正弦法則 / 代数的量子場理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
量子論の数学的構造の研究を通じて、物理学の基本的な記述枠組みとして確立されてきたのが「物理量代数と状態」の概念であった。物理量の代数は、「確率変数代数」の一般化とみられるが、一般には非可換である。この非可換性のゆえに、「値が本質的に不定である」ような量を扱うことが可能となる。また、そのような場合における「状態」の概念が、物理量の代数の上の線型汎関数(「期待値」を与える関数)として定義され、「物理量代数と状態の組」が与えられるごとに、現象の法則的記述が可能となるのである。 一般に、「(非可換)代数とその上の状態の組」を「量子確率空間」と呼ぶ。この量子確率空間から出発する「確率論の一般化」が「量子確率論」(「非可換確率論」あるいは「代数的確率論」ともよぶ)とよばれる一分野である。 申請者は、この「量子確率論」をもちいて、「量子古典対応」の数理を定式化し、一般化することを考えてきた。酒匂宏樹氏(新潟大学)との共同研究により、量子古典対応の数理を直交多項式の漸近解析に応用し、広いクラスの直交多項式が「逆正弦法則」とよばれる確率分布で記述可能であることをつきとめた。さらに、そのクラスを外れた直交多項式について同様な役割を果たす確率分布を発見し、その分布と「量子ウォーク」との関連を調べた。 同時に、小嶋泉氏(元京都大学)および岡村和弥氏(名古屋大学)との共同研究では、上の成果を含めた量子確率論的な視点を、代数的場の量子論の新しい定式化につなげた。とくに、「局所的状態」という概念の確立と、それをもとにした量子場再構成の定理の一般化は大きな前進であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
酒匂宏樹氏(新潟大学)との共同研究を通じて、量子確率論の文脈での量子古典対応の数理の一般化をすすめてきた。「古典極限」としての逆正弦法則と、古典極限として表れる別種の確率分布を発見し、量子ウォークとの関係を研究した。結果として、連続時間量子ウォークにおける極限定理へのまったく新しい証明を与えることに成功した。 一方、小嶋泉氏(元京都大学)および岡村和弥氏(名古屋大学)での共同研究においては、量子古典対応の数理を手掛かりに、量子物理学の根本問題に対する新しいアプローチの研究をすすめた。その過程で、「局所的状態」の概念を定式化し、代数的量子場理論の核心である「セクター理論」を一般化することに成功した。これは、状態を、「ミクロ系とマクロ系のインターフェイス」としてとらえる観点に基づいたものであり、量子古典対応の考えがなければ決して得られなかったものである。 以上の二つの大きな前進は、予想をはるかに越えたものであった。
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Strategy for Future Research Activity |
量子古典対応の研究にもとづき、量子確率論と量子ウォークの関係の研究を進める。同時に、今野紀雄氏(横浜国立大学)および瀬川悦生氏(東北大学)ら量子ウォークの専門家と共同し、光合成の解明や放射性廃棄物逓減の方法の数学的基礎に役立てる(すでにこれらの問題との深い関連についてのいくつかの発見をしており、これを形にする)。 また同時に、小嶋泉氏(元京都大学)や岡村和弥氏(名古屋大学)との研究を継続し、量子場理論の再構成を通じて量子古典対応をはじめとした量子物理学の根本問題を再考していく。
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Causes of Carryover |
今年度は主に国内の共同研究者との研究打ち合わせに傾注し、海外への渡航を行わなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
得られた研究成果を、海外の学会・研究集会で発表するとともに、海外の研究者との研究打ち合わせも積極的に行っていく。 具体的には、7月末にポーランドでの研究集会に参加することが決まっており、11月頃にもヨーロッパの量子確率論研究者との研究打ち合わせ(現在調整中)を予定している。さらに、3月までにはもう一度海外に渡航することを考えている。
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Research Products
(4 results)