2014 Fiscal Year Research-status Report
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26870808
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Research Institution | Sendai National College of Technology |
Principal Investigator |
矢入 聡 仙台高等専門学校, 専攻科, 准教授 (00447187)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 聴覚ディスプレイ / 頭部伝達関数 / 空間音響 / 音像定位 / 存在感 |
Outline of Annual Research Achievements |
頭部伝達関数を用いて音源を模擬する聴覚ディスプレイシステムにおいて、従来のシステムよりも正確に音源の持つ情報を提示することを目的に、システムの根本的な刷新を目指し研究を行った。これまで聴覚ディスプレイシステムの精度は音像定位実験によって評価され、「正しい方向定位ができること」が指標とされてきた。これに対し、本研究では音源があることによる「存在感」に着目し、音源の存在感を評価指標として用いるための検討を行った。そして、存在感のある音源を提示するための新たなレンダリング手法について研究してゆく。以上2点が大きな目的である。 特別推進研究の連携研究者として「臨場感」の定量評価に関する研究に関わってきた知見をもとに、存在感を定量評価するための形容詞対を選定した。音の存在感に関する事前調査をもとにしてSD法による実験を行い、因子分析を行った。その結果、存在感は第一因子:評価性因子、第二因子:迫力性因子、第三因子:知覚性因子、第四因子:空間性因子の4つの要素から構成されることがわかった。 聴覚ディスプレイでの方向定位において、特に正面からの音が正しく定位しにくいことが知られている。一方、実音源聴取時には、音源が存在する場合、少なくとも音源方向以外からの到来音は音源の存在により遮蔽などの影響を受ける。そこで、正面方向以外のHRTFについては、無響室にて遮蔽物を設置した状態における伝達関数を測定し、正面方向のHRTFについては、従来通りの測定法で、無響室にて伝達関数を測定することで、定位しにくい正面の音を定位しやすくするレンダリング手法に発展できないか、基礎的検討を行った。遮蔽物となる音源のサイズや材質、位置などを数通り変えながら、伝達関数の選定を繰り返した結果、系統的変化が観測しやすいと予想される音源のサイズや位置のパラメータによっても、測定結果は系統的に変化しないことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね交付申請書に記載の研究実施計画にしたがって研究を計画・実行できているため。 音の存在感に関する調査から、存在感は4つの心理的な要素から構成されることがわかった。この結果について学会発表も行った。平成27年度は、「存在感」のある音源を提示可能な実音源と、現在の「存在感」を表現できていない聴覚ディスプレイシステムによる音源とを同時に切り替えながら提示できる実験系を構築し、比較聴取した際の存在感の違いについて評価実験を行う予定であるが、この際、得られた存在感に関する知見を活用して音源を選定する予定である。 また、遮蔽の影響についての調査、およびレンダリングアルゴリズムの検討においては、遮蔽物となる音源のサイズや材質、位置などを数通り変えながら、伝達関数の選定を繰り返した結果、実験した範囲では測定結果において系統的な変化が見られなかった。今後はより影響が現れると予想される条件をパラメータにして引き続き遮蔽物の影響を測定によって調べていく。こちらについては、現時点ではまだまとまった有益な結果が得られておらず、特にレンダリングアルゴリズムの可能性については結論付けられないため、研究発表は測定を引き続き行いレンダリングアルゴリズム提案の可能性について判断したうえで行う予定である。現状では予想に反して系統的な変化が見られなかったため、他の条件でも見られない場合には、遮蔽物の影響をいかしたレンダリング手法の実現は難しい可能性もある。その場合には、アルゴリズムの提案ではなく、遮蔽物が頭部伝達関数測定に与える影響として、結果をまとめ研究発表を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は本研究課題の最終年度であるため、2つの目的それぞれについて結果をまとめ研究発表を行う。 [音源の存在感を評価するための指標の検討] 「存在感」による評価指標の確立において、平成27年度は、「存在感」のある音源を提示可能な実音源と、現在の「存在感」を表現できていない聴覚ディスプレイシステムによる音源とを同時に切り替えながら提示できる実験系を構築し、比較聴取した際の存在感の違いについて評価実験を行う。実音源はスピーカを30度間隔で12個用いて、聴取者の周囲を囲み、伝達関数測定時と同じ音源で遮蔽する。音源は26年度に得られた存在感についての知見をもとに選定する。耳介を閉塞しないヘッドフォンを用いることで両方の音源をランダムに聴取する実験系を構築する。スピーカ等、実験機材については26年度に購入済であり、実験の準備も進めてきた。実験を通して、存在感が従来の音像定位とは異なる指標となり得るかどうかを調べ、論文にまとめる予定である。
[音源の存在感を表現するためのアルゴリズムの検討] 遮蔽に着目したレンダリング手法の検討については、引き続き遮蔽物の影響について調べる。現状では得られた結果に系統的な変化が見られず、このままではアルゴリズム実現は不可能である可能性が高い。まずはサイズの極端に大きい/小さい場合などのように、より影響が現れると予想される遮蔽物の条件をパラメータにして引き続き遮蔽物の影響を測定によって調べていく。これにより、提案アルゴリズムの有効性について結論付ける。
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Causes of Carryover |
上記「その他」の項目において、投稿料を想定していたが、これを使わなかったため。当初、レンダリングアルゴリズムの検討において、何らかの遮蔽物の影響が見られれば投稿を計画していたが、予想に反しほとんど系統的な影響が見られず、当初計画と変更することとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
27年度は最終年度であるため、何らかの形で研究結果を投稿し、その際に充てる予定である。遮蔽物の影響が見られればレンダリングアルゴリズムについて言及し、万一見られない場合、その遮蔽物と頭部伝達関数測定結果の詳細な報告を行う。
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Research Products
(2 results)