2014 Fiscal Year Research-status Report
アメリカの社会政策構想を支えた思想の展開:J.R.コモンズとウィスコンシン理念
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26870809
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Research Institution | Gunma National College of Technology |
Principal Investigator |
加藤 健 群馬工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (70612399)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アメリカ型福祉国家 / 社会政策構想 / ウィスコンシン理念 / J.R.コモンズ / C.マッカーシー / R.T.イーリー / R.M.ラフォレット |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、アメリカの社会政策構想を支えた思想を掘り下げる観点から、19世紀末以降のアメリカ社会の急激な変化のもとで、J.R.コモンズが、アメリカ社会の在り方についてどのようなイメージを抱いていたのかという問題群を切り開くことにある。 平成26年度は、夏季休業期間中にアメリカ・ウィスコンシン州の歴史協会において、「革新主義運動」を推進し独占や支配クラスの特権を打破する政治改革の側面と政治改革を実施する際の州立大学の役割としての「大学拡張部」の側面を併せ持った「ウィスコンシン理念(Wisconsin Idea)」と呼ばれる理念をキーワードに、“John R. Commons Papers”や“Richard T. Ely Papers”、そして“Charles McCarthy Papers”などの一次資料を調査した。とりわけ「ウィスコンシン理念」の内実を探るために、1890年代~1910年代のイーリー、コモンズ、マッカーシーとその周辺の人物との往復書簡や各人の著作のドラフト等を中心に資料の把握と複写を実施した。 目下、収集した資料とコモンズがウィスコンシンの実践的取り組みをまとめた論文集『労働と行政(Labor and Administration)』(1913年)とを突き合わせて解読を進めているところである。平成26年度においては、コモンズが、1900年代にラフォレットやマクガヴァンなどの州知事のもとで州レベルにおける労働災害補償保険などの草案作りに直接参与し、1920年代以降に社会改良のアイディアを連邦レベルへと拡大することに本格的に取り組むなど、ウィスコンシン理念が持つ政治的次元と大学の州へのサービスの2つの側面を架橋する経済学者であったことを明らかにした。この研究成果の一部を、平成27年3月22日(日)に「進化経済学会第19回大会」にて報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、「研究の目的」に記載したように、「アメリカの社会政策構想を支えた思想を掘り下げる観点から、19世紀末以降のアメリカ社会の急激な変化のもとで、J.R.コモンズが、アメリカ社会の在り方についてどのようなイメージを抱いていたのかという問題群を切り開くこと」を目的としている。現在までの達成度を、この「研究の目的」に照らして評価すれば「おおむね順調に進展している」といえる。その理由は、次の2点にある。 (1)一次資料の把握と収集について。平成26年度には、日本において入手不可能なコモンズをはじめとするウィスコンシン理念に関わる一次資料をアメリカ・ウィスコンシン州の歴史協会において把握することができた。 (2)学会報告について。コモンズの刊行論文集の検討をもとに、ウィスコンシン理念が持つ政治的次元と大学の州へのサービスの2つの側面を架橋する経済学者であることを明らかにした。その成果の一部を「進化経済学会第19回大会」にて報告した。 なお、平成27年度には、現段階で予備的な考察にとどまっている新たに収集した一次資料と刊行論文集との突き合わせ作業をより一層進展させていく。また、テクストに密着した解釈や国内外の研究者とのより活発な意見交換を通して、ウィスコンシンのユニークな性格の特徴づけや、ウィスコンシンの系譜におけるアメリカの社会施策構想を支えた思想の連続性・不連続性に関する考察をより深めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度において得られたウィスコンシン理念やアメリカ制度学派に関する予備的な研究成果をもとに、平成27年度においては社会政策構想を支えた思想をより明確に把握するため、新たに収集した一次資料と刊行論文集との突き合わせ作業を進めていく。 コモンズに関しては、収集した“John R. Commons Papers”を活用し、American Labor Legislation Review(ALLR)の誌上に掲載された複数の論文や、『インダストリアル・グッドウィル』(1919年)や『産業統治』(1921年)、さらに死後出版された『集団行動の経済学』(1950年)に至るコモンズの制度進化論と産業統治思想とを結びつけて解釈し、制度変化そのものの意義を重視するコモンズの思想的な特質を明らかにする。ウィスコンシン理念に関しては、政治的側面および大学の州に対するサービスの側面の二面性を、収集した“Richard T. Ely Papers”や“Charles McCarthy Papers”などの一次資料や、Howe『ウィスコンシン:民主主義の実験室』(1912年)等によってウィスコンシンのユニークな性格を特徴づけていく。これらコモンズやウィスコンシン理念の研究で得られた成果を論文としてまとめていく。 日本語論文の作成と並行して、海外の研究者との議論を展開するために英文ペーパーの作成を進める。平成27年6月のHistory of Economics Society(HES)において学会報告を行い、M.ラザフォードやJ.ビドルなどのアメリカの制度学派研究者や、アメリカ労働運動史家のB.カウフマンらとの意見交換をもとにペーパーを煮詰めていく。これらの研究成果を、内外の査読付きの学会誌に投稿する。最終的には、ウィスコンシン理念に焦点を当てたコモンズを中心とする制度学派研究に関する著作として仕上げていく。
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Causes of Carryover |
洋書購入として見込んでいた金額が、見積もり段階よりも為替レートの変動等により安価となり、結果的に94円分の差額が生じてしまったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度の洋書購入費用として使用する予定である。
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Research Products
(1 results)