2014 Fiscal Year Research-status Report
小笠原乾性林における土壌乾燥に伴う樹木水利用の時系列変化と乾燥枯死回避メカニズム
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26870833
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Research Institution | Forestry and Forest Products Research Institute |
Principal Investigator |
吉村 謙一 独立行政法人森林総合研究所, 関西支所, 学振特別研究員 (20640717)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 小笠原 / 乾性低木林 / 水分生理 / エンボリズム / 野外灌水実験 / 通水性回復 / 糖 |
Outline of Annual Research Achievements |
小笠原諸島父島の乾性矮低木林に生育する樹木の生理的性質が乾燥ストレスによってどのように変化するか調べた。通常、樹木は大気乾燥にともなう気孔閉鎖と土壌乾燥にともなう根の吸水量の低下の両者があると考えられているが、島嶼部という土地柄により大気は湿潤であるが土壌は乾燥することにより樹木は乾燥ストレスを受けることが明らかになった。 枝の通水性の時系列的な観測により、土壌乾燥に伴い徐々に道管が水切れを起こすことが明らかなった。道管が水切れを起こした後、これに追従するように木部の柔細胞に含まれるデンプン量が低下し、その一方で木部の可溶性糖量が増加した。道管が充分水切れを起こした状態で野外灌水実験を行った。すると、灌水後2日で道管が水切れから回復することがわかった。一度水切れした道管は水が通らなくなるが、実際には回復がみられたことから樹木の木部には能動的な通水性の回復プロセスがあると考えられる。近年の研究によって木部に注入された糖が通水性の回復に寄与する可能性が示唆されているが、本研究においても水切れ後に道管に可溶性糖が蓄積され、その後の灌水により通水性が回復するプロセスがみられた。また、通水性の回復後にデンプン濃度が上昇し、可溶性糖濃度が低下することから可溶性糖濃度の上昇は乾燥ストレスがかかった一時的な現象であり、道管の水切れからの回復に大きく寄与していることが示された。 土壌乾燥および土壌灌水に対する生理反応の樹種差を明らかにするために、乾性矮低木林に生育するテリハハマボウとムニンネズミモチを用いて樹種間比較を行なった。その結果、テリハハマボウで乾燥・灌水に伴う糖濃度の変動が大きく、光合成制限等により糖生産が低下すると通水機能が回復しなくなる可能性が示唆された。この点については次年度の研究で明らかにしていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目標にしていた灌水実験による通水性の回復過程および糖の関与について明らかになってきた。しかし、雨が多い湿潤年であったため、乾燥ストレスが弱く、個体の生死への影響については評価することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は樹種を増やして糖と水利用の関係の樹種差を調べるとともに、幹の中の水のバッファー効果についても調べ、幹の中での貯水効果と乾燥耐性についても調べていく予定である。もし仮に強い乾燥が夏に起これば、乾燥年と湿潤年の水利用の違いについても記述することができる。
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Causes of Carryover |
土壌水分観測に関するインフラ整備がまだできていないため
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
自作型の土壌水分センサーの作成を予定している。
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