2014 Fiscal Year Research-status Report
PM2.5の見える化と半定量評価による科学的な大気環境学習プログラムの開発と実践
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26870844
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Research Institution | Gunma Institute of Public Health and Environmental Sciences |
Principal Investigator |
齊藤 由倫 群馬県衛生環境研究所, 大気環境係, 研究員 (30450373)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 環境教育 / 大気環境 / PM2.5 / 官能試験 / 半定量 / 地方環境研究所 / 科学的視点 |
Outline of Annual Research Achievements |
環境学習で実施するPM2.5濃度の測定体験(簡易法)には、濃度が既知のPM2.5標準フィルタを利用する。この標準フィルタの作成は、一般環境の前橋において初めに行い、標準フィルタの視覚的な色の濃淡がPM2.5濃度に比例するか官能試験を行った。官能試験は12段階のカラースケールを用いて20代~50代の7人で実施した。その結果、PM2.5濃度が11~60μg/m3の標準フィルタ5枚に対して、12段階カラースケールの値は1.0~5.6の範囲でPM2.5濃度に比例(R2=0.94)することを確認した。PM2.5濃度の測定について、この標準フィルタを用いた簡易法と公定法の差異は、2割程度と半定量の精度としては十分なことを確認した。そこで次に、環境の異なる3地点(一般環境、道路沿道および山岳環境)で夏季と冬季に標準フィルタを作成した。 この環境学習では、測定体験と併せてPM2.5を含む大気汚染の全般的なことについて講義も行う。その教材として、講義用プレゼンと講師が参照する指導マニュアル、および受講者に配布するテキストを作成し、試行的に環境学習を実施した。対象は小中学生の団体(9人)と中学生の団体(18人)および教員の団体(11人)であった。中学生の団体に対する学習前後のアンケート結果を解析したところ、この環境学習は、PM2.5の『見える化』による大気汚染の実感、調査結果に対する論理的な考察、データに基づいて現状の大気環境を客観的に判断するという一連の経験を提供できたと考えられた。測定体験を通して環境データが得られる原理を知ることは、環境データへの関心とそれに着目する意識の醸成に有意義であろう。環境教育の基本方針では、環境に対する論理的思考力や判断力を養う重要性が示されているが、本環境学習はこれらの点に対して、受講者の環境問題に対する科学的視点を向上させることで貢献するものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね当初の計画通りに進んでいる。しかし、PM2.5標準フィルタの作成では、山岳環境の冬季においてPM2.5濃度が低いまま推移したため、適当な濃度範囲の標準フィルタを作成することができなかった。この点については、次年度改めて作成する必要がある。 道路沿道では、PM2.5濃度に対する標準フィルタの色の濃淡が、その他の環境のものに比べて明らかに濃くなった。これは自動車排ガスに含まれるススが原因と考えられ、道路沿道では標準フィルタを使い分ける必要が考えられた。一方で、一般環境で冬季に作成した標準フィルタでは、同地点で異なる時期に作成した標準フィルタと山岳環境で作成したそれらに比べて、特にPM2.5の高濃度領域においてフィルタの色が濃くなる傾向が見られた。この結果は、一般環境における代表的な冬季のPM2.5の状況を反映したものとして妥当なのか、あるいは特異的な事象を偶発的に捉えた影響によるものか、次年度の同時期に改めて標準フィルタを作成し確認する必要がある。 環境学習の実践に関しては、次年度に行う計画であったものの、先行して各種団体に対して実施することができた。この実施結果から、本環境学習は我々が意図する教育効果を期待できそうであることが示唆された。次年度は、より多くの環境学習を実施し、アンケート結果等から教育効果を統計学的に考察していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り最終年度に当たる平成27年度は、構築した環境学習プログラムを実践し、それと同時に学習の前後でアンケートも行う。そのために、学校などの団体に向けて、各種メディアを活用して本環境学習プログラムの広報を行う。 環境学習の実践により得られたアンケート結果などから、本環境学習の教育効果を統計学的に評価していく予定である。また、得られた研究成果の公表も積極的に行う。
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Causes of Carryover |
当初の計画ではPM2.5捕集用のフィルタを購入する予定であったが、当研究所にて別の調査に供しているフィルタの余りで代替することができた。また、PM2.5のサンプリングに用いる空気吸引ポンプは乾電池で稼働できるが、サンプリング時間が12時間に制限される。当初、この時間ではPM2.5のサンプリングに不十分であることも想定して、念のため専用のバッテリーを購入する予定を立てていた。しかし、12時間サンプリングの条件下で使用するPM2.5標準フィルタ(今年度作成した)は、PM2.5濃度と視覚的な色の濃淡が比例し、PM2.5濃度に応じた色の濃淡差を識別できると分かったため、サンプリング時間は12時間で十分である事を確認した。そのため、専用バッテリーの購入が不要となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
PM2.5標準フィルタの作成においては、改めて一般環境における冬季の標準フィルタと、山岳環境における冬季のそれを作成し直す必要があることから、『次年度使用額』はこのための物品購入や旅費に充てる。また、次年度は夏休みの環境科学教室を開催する予定であり、『次年度使用額』はこのための物品の購入にも充てる予定である。
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Research Products
(4 results)