2014 Fiscal Year Research-status Report
腸管寄生蠕虫感染におけるM細胞を介した新規粘膜免疫システムの解明
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26870849
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
下川 周子 独立行政法人理化学研究所, 統合生命医科学研究センター, 特別研究員 (60708569)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 寄生虫感染症 / M細胞 / 腸管免疫 |
Outline of Annual Research Achievements |
腸管寄生蠕虫は、粘膜付近で独特な免疫応答を誘導し、自らの寄生適応のため宿主免疫を抑制すると同時に、アレルギー反応など有害な免疫応答も抑制することが示唆されている。しかし腸管という場の複雑さも手伝いこの特徴的な免疫応答がどのように誘導されるかは分かっていない。本研究では、パイエル板の免疫担当細胞へ伝達する特殊な腸管上皮細胞であるM細胞に着目し、粘膜を起点として感染する寄生虫に与えるM細胞の影響を明らかにすることを目的として研究を行った。 今年度は、M細胞のマスター転写因子であるSpi-Bを欠損させたマウスに、腸管寄生蠕虫であるHeligmosomoides polygyrus(Hp)を感染させることで解析を行った。 野生型マウスでは、感染2週間後をピークに1カ月以上に渡って糞便中に虫卵の排出が認められるが、Spi-B欠損マウスでは虫卵が認められなかった。このことからM細胞が欠損することで、パイエル板でなんらかの免疫異常が起きている可能性が示唆された。 本研究では寄生虫感染におけるM細胞の役割という未だ解明されていない基礎的研究を遂行することに意義がある。腸管を寄生の場とする蠕虫は他の病原体と異なり、唯一腸管においてTh2免疫を誘導する。しかしながら、蠕虫感染におけるTh2誘導、Th2による蠕虫排除の詳細なメカニズムは不明な点が多い。また、パイエル板における応答やM細胞に着目した研究も皆無である。寄生虫感染で認められる顕著なTh2応答にM細胞が関わるメカニズムを明らかにできれば、アレルギーの原因となるTh2の抑制を標的とした新たなアレルギーに対する治療戦略をもたらすことが期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
転写因子Spi-Bは、M細胞のみならず、形質細胞様樹状細胞などの血球系細胞にも発現する。今回見られた、Spi-B欠損マウスでのHpの虫卵排出の低下が、M細胞がなくなったことによるのか、他の血球系の変調によるのかを確認するために、以下の2点について研究を行った。 1)Spi-B欠損マウスと、野生型マウスを用いて骨髄キメラマウスを作製し、Hpを感染させる。 2)flox-Spi-B/flox-Spi-BマウスとCre-villous promoterを掛け合わせることで、腸管上皮特異的にSpi-Bを欠損させ、Hpを感染させる。 その結果、骨髄キメラマウスではHp感染に対して感受性となり、Vil-Cre Spi-B flox/floxマウスではHp感染に対して抵抗性のままであった。このことから、Spi-B欠損マウスで認められたHp感染に対する抵抗性は、M細胞非依存的であることが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の研究により、Hp感染に対するM細胞の関与は否定されたことから、Spi-Bを発現しているその他の骨髄系の細胞がHp感染に対する抵抗性を規定していることが示唆された。そこで平成27~28年度は、Spi-B欠損マウスの骨髄細胞を詳細に解析する予定である。 血球の分化に異常が認められれば、その細胞がどのようにHp感染に対して抵抗性を示しているのかそのメカニズムについても解析を行う。
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Causes of Carryover |
本年度に使用した経費で全てまかなえたことと、マウスを十分に繁殖させたことから、マウスの購入代が予定より少なくすんだ。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初の計画ではM細胞がHp感染に対する抵抗性に寄与しているのではないかと仮説をたて研究していたが、M細胞非依存的であったため、来年度は骨髄細胞の分化に焦点をあてて実験を行うことになった。 そこで、新たに様々な分化マーカーのフローサイトメーター用抗体を購入予定である。
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