2015 Fiscal Year Annual Research Report
「サンゴ粘液」がサンゴ礁生態系の微生物食物連鎖に果たす役割を定量的に理解する
Project/Area Number |
26870916
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
中嶋 亮太 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋生物多様性研究分野, ポストドクトラル研究員 (20546246)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | サンゴ粘液 / 微生物 / 微生物食物網 / 鞭毛虫 / バクテリア |
Outline of Annual Research Achievements |
<具体的内容> 造礁サンゴは透明で粘性のある有機物を海水中に分泌する。これは通称「サンゴ粘液」呼ばれ,サンゴに共生する藻類の光合成産物に由来し,サンゴによって作られ,分泌される。サンゴ粘液は水中に放出されると,大部分は直ちに溶けて溶存態有機物となり,細菌の成長を促す。したがって,サンゴ粘液の放出により細菌が活発に増殖すると,その後に続く微生物食物連鎖の炭素フローは促進されると予想される。そこで本研究では,サンゴ粘液が存在する系と存在しない系(コントロール)において,細菌,鞭毛虫の培養を行い,各微生物の成長速度・生産量を調べ,サンゴ粘液単位量あたりにどれだけ微生物食物連鎖の炭素フローが促進されるかを定量的に調査した。実験の結果,サンゴ由来の有機物が,細菌と鞭毛虫を経由して微生物食物連鎖の炭素フローを促進することが定量的に示された。
<意義と重要性> 一般的な海洋生態系では,植物プランクトンが主な溶存態有機物の生産者で,そこから微生物食物連鎖が始まるが,サンゴ礁では,植物プランクトン量が極めて少なく限界がある。本研究は他の溶存有機物源としてサンゴ粘液に焦点を当て,そこに始まる食物連鎖構造を明らかにした。一般的にサンゴの被覆率が高いほどサンゴ粘液の水柱へのインプットが増大するため,健全なサンゴ礁(高被覆率)ではより活発な微生物食連鎖が存在していると考えられる。 近年,全球的気候変動や富栄養化,魚の乱獲といった人間活動による強いストレスの影響を受けて,徐々にサンゴ群集が衰退している。造礁サンゴは粘液のインプットにより生態系の効率の良い物質循環を可能にしていると考えられるが,サンゴの衰退によってこれらの効率の良い物質循環プロセスは失われると考えられる。
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