2016 Fiscal Year Research-status Report
preplay現象のヒトにおける実証と,その計算論的意義の解明
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26870934
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
倉重 宏樹 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 特任研究員 (80513689)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | プリプレイ / 知識獲得 / スキーマ / fMRI / 学習 / 自発脳活動 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は,ヒトにおいてもpreplay現象が存在し,それはヒトの知識獲得に関与するという仮説をMRIを用いて確かめた. 実験ではそれぞれでは意味を解釈することが難しいが,合わせると意味がわかるプレ文・ポスト文のペアを用いた.被験者に前日にプレ文を学習させ,翌日,安静時fMRIを測った後,ポスト文の提示,およびポスト文の神経表現測定を行った.得られたデータに対し,まずポスト文提示前の安静時fMRIに,ポスト文の神経表現がpreplayとして含まれているかを確かめた.この検討により,ポスト文の神経表現に当たるものがその前の安静時fMRIに既に存在していることを示唆する結果が得られた.また,ポスト文が対となるプレ文を持っている場合と持っていない場合について,そのpreplayの強さに差があるかどうかを検討した.その結果,統計的に有意ではないが,その傾向は見られた.したがって,確たることをいうためには今後さらに被験者数を増やす必要がある.さらに,ポスト文の理解度とpreplayの大きさに相関があるかを調べた.その結果,ある程度の正相関が確認された. 以上の実験結果は,ヒトにおいてもpreplay現象が存在する可能性を示唆し,さらに,preplayはヒトがどのようにして選択的に知識獲得するかを規定する基礎的現象でありうることを示唆している. また,平成28年度はヒトにおける知識の選択的獲得の性質をさらに調べるための実験も行った.この実験では被験者に対し,新規語の瞬間的逐次提示課題,新規語の記憶再認課題,新規語からの自由発想による論述文生成課題を課した.その結果,まずよく記憶できている新規語からは,より多くの論述文が生成されることが見られた.またこの結果は,ヒトがよく生成できるものを選択的に記憶することに由来し,よく記憶できたからよく生成できたわけではないことも,追加実験で確かめた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主な目標は,ヒトにおいてもpreplay現象が存在することを示し,さらにその意義を調べることにある.そこで,preplayの存在を示す部分とその意義を示す部分の二つについて評価する. まずpreplayの存在についてであるが,前年度までに開発した方法論を基礎として,fMRIを用いてその存在を確認することはかなり達成ができていると考えられる.近年のヒトfMRI研究では,学習した神経表現のreplayを検出することが行われ,それらの成果はハイインパクトトップジャーナルに掲載されている.本研究で開発したpreplayの検出法はそれらと類似した手法からなり,したがって方法としての妥当性は高いと考えられる.ゆえにヒトにもpreplay現象が存在することはおおむね示せていると思われる. またpreplay現象の意義であるが,preplayの強さとそれが表現している対象の理解度との間に正の相関が見られており,したがって,preplayの存在は知識の獲得を促進することが示唆された.またさらに,ヒトの知識獲得について,知識が生成を増大するように選択的に獲得されるという,これまで知られていなかった性質を示した.今後,この性質とpreplayの関係を明らかにできれば,知識獲得について,神経活動のダイナミクスとその心理学的および計算論的意義という異なるレベルが結び付けられることが期待される.平成28年度までの成果はその一歩手前まで来ており,全体として研究はおおむね順調に進展していると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
今後まず行うべきは,さらに追加で実験を行い,被験者数を増やすことである.現状,preplay現象の存在自体や,preplayの強さと知識獲得の度合い(対象の理解度)の関係については,統計的にも有意な結果が得られているが,事前知識の有無(プレ文の存在の有無)とpreplayの強さの関係については,傾向あり程度でしか結果が得られていない.したがって,まず被験者数を十分に増やし,この関係を十分に確かめることが急務である. また,本研究でpreplayの検出のために用いた手法は,従来研究でヒトでのreplay現象を検出するために使われていたものの一つとほぼ同様の手法である.しかしながら,replay現象の検出にはほかの手法も使用されており,それらの手法,およびさらなる新規的手法によってもpreplay現象の存在や,その知識獲得との関係性の確認を行うべきであると考える.このことにより,本研究で見られていることをより強く主張できるようになると考えられる. 平成28年度までの成果で,単にpreplayの存在や意義を確かめるだけでなく,より広くヒトの知識獲得についての知見が得られてきている.この方向を深めていくことも重要である.まず,ヒトは外の情報を取り入れるだけでなく,自らの内で生成した情報をも知識として獲得しうる.したがって,これまで行ってきた実験を改定することで,このような内的情報生成に注目した知識獲得の性質を明らかにする実験も実施予定である.また,これまでの結果は,知識はやみくもに取り入れられるのではなく,何らかの「目的関数」にしたがって獲得されていることを示唆している.平成28年度に示した,生成を増進するような選択的知識獲得がその一例であるが,しかしこの「目的関数」の全貌を明らかにするには,より網羅性のある実験を行う必要がある.そのような実験も今後実施する予定である.
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては,被験者謝金が当初予定よりも少なかったことがある.これは当初三日連続での実験を予定していたが,その後の検討により二日連続での実施で十分であることがわかり,二日連続の実施としたことがまず第一の理由である.これにより被験者一人当たりの必要金額が減った.また被験者数が,当初予定していたよりは少なかったことが次の理由である.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用の主なものとして,MRI実験の被験者謝金および被験者の実験施設への交通費としての支出を計画している.平成28年度より継続している実験は,被験者一人当たり16,000円の謝金と約2,000円の交通費が支払われている.今後さらに30人の被験者の追加を予定しており,これにより540,000円が支出される予定である.またMRIを用いない行動実験も行う予定であり,これは被験者一人当たり2,000円を支払う予定である.これはのべ200人を予定しており,よって400,000を支出予定である.またこの行動実験は10台のノートパソコンを用い,同時に10名で実施する予定である.パソコンは月当たり3,000円程度のリース契約によって3ヶ月借りる予定であり,これにより90,000円程度の支出を予定している.このほか書籍や消耗品購入等の小額支出を予定している.
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