2014 Fiscal Year Annual Research Report
教科書における知識の展開過程を反映したテキストの計量言語学的分析
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26880005
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
浅石 卓真 東京大学, 教育学研究科(研究院), 研究員 (10735632)
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Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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Keywords | 教科書 / テキスト分析 / 図書館情報学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、1.既にテキストデータ化が完了している中学・高校の理科教科書を対象として、「概念が出現する過程」「概念が体系化されていく過程」を反映したテキストの特徴を分析すると共に、2.社会科教科書の本文のテキストデータ化、を行った。 まず、理科教科書を対象とした分析に関して、概念が出現する過程を反映した特徴については、単語や句の中でも特に分野の概念を表す専門用語がテキストの冒頭からどのように出現していくか(新しい専門用語がどのように出現していくか、どの程度の間隔で繰り返し出現し、全体にどのような頻度分布で推移するか)を分析した。「概念が体系化されていく過程」を反映した特徴については、専門用語を頂点、同一段落内での共出現関係を辺とする語彙ネットワークの形成過程(どの範囲の語彙が・どのように構造化されていくか)を分析した。その結果、多くの教科書に共通するパターンを可視化するとともに教科書ごとの特徴も把握することができた。 以上の研究成果は、学習という行為を想定したときに決定的に重要だが、これまで十分に明らかにされてこなかった「読み進めていく行為に対応した」テキストの特徴を多角的に明らかにするものであり、教科書自体の評価・改善を図るための基礎研究として重要な意義を持つものである。 次に社会科教科書のテキストデータ化に関して、次年度以降の本格的な分析に備えて、中学校の社会科(地理的分野・歴史的分野・公民的分野)の3冊の教科書の本文部分をテキストデータ化した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、教科書上で知識が展開していく過程がテキストの形式としてどのように反映されているかを、計量言語学的手法で明らかにすることである。 研究の準備段階である教科書本文のテキストデータ化については、一部が未完了に終わった。本研究の分析対象は中学・高校の理科・社会(高校は地歴・公民)の教科書であるが、このうち理科については中学・高校共に研究開始時点で既にテキストデータ化が完了していた。社会については、本年度で中学については作業が完了したが、高校については当初の想定よりも費用がかかることが分かったので、テキストデータ化は次年度の予算で行うこととした。 理科教科書を対象とした分析については、研究開始当初の予定通りに進めることができた。具体的には、理科教科書における知識を「概念が構造化されたもの」と捉えた上で、【研究実績の概要】で述べた方法で各教科書を分析した。その結果、いずれの教科書も前半で出現した一部の専門用語が後半も繰り返し使われている傾向や、それらの頻出語を核にして専門用語が相互に間接的なつながりを持つ一つの大きな語彙ネットワークを形成する傾向を明らかにすることができた。 その一方で、科目に応じた違いも明らかにすることができた。例えば、高校教科書の中でも物理や化学の場合はテキスト前半で出現した専門用語が後半も繰り返し出現する傾向が特に強く、それらを介して一つの大規模な語彙ネットワークが成長していく過程が観察できた。これに対して生物や地学の場合は、テキスト中盤以降も新しい専門用語が出現し続けており、途中までは小規模な語彙ネットワークが別々に成長していく様子が観察できた。 以上から、現在までの達成度は(2)おおむね順調に進行している、と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は、残りの教科書のテキストデータ化を完了させた上で、1. 中学・高校の理科教科書を対象とした詳細な分析、2.社会科の教科書を対象とした分析を行うと共に、3.教科や学年に応じたテキストの特徴を解釈する作業を行う予定である。 理科教科書の詳細な分析については今後、特に重要な専門用語(テキスト中での出現状況に応じて付与した重要度の高い語)に限定した場合のテキスト中での出現過程やその頻度分布の推移、また語彙ネットワークについてはどのくらい少数の語彙を中心にして構造化されていくか(中心化傾向)の推移などを分析する。 社会科の教科書を対象とした分析については、理科教科書を対象とした分析の枠組み・方法をそのまま適用するだけでなく、社会科の性格を踏まえて分析の枠組み・方法を修正する。例えば、基本的な概念を表す専門用語が繰り返し出現する理科とは異なり、社会(歴史的分野)や地理歴史ではほとんどの専門用語はテキスト中で一度しか出現しないと考えられる。そのためここでは、専門用語を人物・国名など複数のカテゴリーに振り分けるとともに、各カテゴリーに該当する専門語彙がテキスト中でどのようなペースで出現するかなどを分析する予定である。 最後に分析結果の解釈については、教育学や心理学などの研究成果を踏まえて、各教科に関する外部要因(親学問分野の性格・児童生徒の発達段階など)から、それぞれの教科書の分析結果を解釈する。これにより、「それぞれの教科書のテキストが、分析結果で得られたような特徴を持つのはどのような理由からか」を遡及的に問うための方向性を素描していく。
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Research Products
(2 results)