2014 Fiscal Year Annual Research Report
メタボローム解析による環境汚染物質のヒト健康リスク評価法確立
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26881003
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
江口 哲史 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 寄附講座教員 (70595826)
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Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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Keywords | ポリ塩化ビフェニル / メタボロミクス / 環境疫学 / 環境毒性学 / 分析化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究「メタボローム解析による環境汚染物質のヒト健康リスク評価法確立」の構想は、細胞内に数千種類存在する低分子代謝物(メタボローム)の解析を通して有機ハロゲン化合物の曝露を反映するバイオマーカーを特定し、環境疫学・環境毒性学の端緒開拓を目指すものである。メタボローム解析は体液、生体組織中のアミノ酸、アミン、核酸、糖類、脂質、ホルモン類などを包括的に測定することで、主に医学・薬学の分野で疾病マーカーの探索や薬効のメカニズム解明、副作用の検索などに適用されている研究手法であるが、メタボローム解析をコホート調査などの疫学的手法と組み合わせ、汚染物質の曝露に起因するバイオマーカーを特定することは化学物質曝露による未知のリスク解明や毒性機序を明らかにする上で有用な手法と考えられるが、過去にそのようなアプローチで研究を試みた例は乏しいのが現状である。 このような背景から、申請者はヒト血液・尿中のメタボロームを分析し、汚染物質との相互作用を明らかにすることで化学物質の曝露に関わるバイオマーカーを解明できると考えた。さらにコホート調査の項目に特定したバイオマーカーの分析をくわえ、化学物質の曝露リスク評価に適用することで、極めて社会学的にも重要な知見を得ることが期待できる。以上の点から、本申請の学術的・社会学的波及効果は極めて大きいと考え、着想に至った。 本年度、申請者は高速液体クロマトグラフ-タンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用いた血清・尿中のメタボロームの一斉分析法の開発に取り組み、コホート調査に適用可能なハイスループットかつ定量性に優れた分析手法の確立を試みた。 初年度の研究の結果、前処理として限外濾過フィルタによるろ過を組み込むこと、適切な内部標準物質を設定することで、既存分析手法に比べ、より定量性に優れた尿中メタボロームの分析法を確立することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究計画は、高速液体クロマトグラフ-タンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用いた血清・尿中のメタボロームの一斉分析法の開発に取り組み、コホート調査に適用可能なハイスループットかつ定量性に優れた分析手法の確立を目指すことであった。 本研究では"Yuan et al. 2012. Nature protocols 7 (5), 872 "を参照し、親水性相互作用 (HILIC) 法を用いたメタボロームの分析法開発を試みた。 初年度の研究の結果、既存分析手法に比べ、より定量性に優れた尿中メタボローム分析法を確立することができた。既存手法では同一検体の繰り返し測定 (n = 5) における検出された目的物質200種のうち、130種が変動係数30%を超過したが、前処理として限外濾過フィルタによるろ過を組み込むこと、適切な内部標準物質を設定することで、変動係数が30%を上回る物質を60種にまで抑えることに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
本分析法における測定値の日間変動等の詳細な条件について求めておく必要があるため、これらの条件を求めた後、分析法については国際誌に投稿予定である。 これらの詳細条件を確立した後、千葉コホート調査として採取したヒト血清・尿サンプルを分析、汚染物質の曝露を反映するメタボロームを探索することで、化学物質の曝露を反映するメタボロームの特定を試みる。サンプル採取時に実施したアンケート調査の結果から男女差、年齢などの個体差要因や、食習慣、職業、居住地や喫煙・飲酒の有無などの生活習慣など、パラメータに影響をおよぼす可能性を持つ要因については、多変量解析を用いてメタボローム発現に関わる交絡要因を取り除き、PCBsを始めとする汚染物質の曝露とメタボロームの関係を解明することで、バイオマーカーの検索を試みる。 統計解析により抽出されたメタボロームの機能はKyoto Encyclopedia of Genes and Genomes, Human metabolome database などのオンラインデータベースを用いて検索・同定し、生体内の機能を解析することで毒性発現機序について解析する。 特定のバイオマーカーを抽出する過程の解析において、さまざまな交絡因子の影響により、解析・データ解釈に問題が生じる可能性がある。そのため、化学物質、中でも本申請で対象とするPCBsの曝露リスクに関する疫学的解析の実績があり、疫学・医学・生化学などの専門家と共同して千葉大学予防医学センターを主催されている、森千里教授から支援と協力の確約を得ている。
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Research Products
(3 results)