2014 Fiscal Year Annual Research Report
地域防災に資する災害報道のベターメントを目指した基礎的研究
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26882054
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
近藤 誠司 関西大学, 社会安全学部, 助教 (60734069)
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Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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Keywords | 災害報道 / 災害情報 / リアリティ / ローカリティ / アーティファクト / 東日本大震災 / 地域防災 / 津波避難 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、災害報道のベターメントを期するため、地域防災―特に津波避難対策―を推進するフィールドに焦点をあて、メディアを、単なる“情報の作り手/伝え手”として位置付けるのではなく、“共にコトを為す”関係当事者のひとつとして捉え直すことを提唱し、その妥当性を、アクション・リサーチの手法によって検討することを目的としている。そのために、理論的研究と実践的研究の両側面から、各一年度分の時間をかけてアプローチしていく計画であった。 実績を概括すれば、まず理論的研究においては、レビュー分析の作業自体はまだ道半ばであるが、分担執筆の著書の中で、災害報道における“コミットメント(共にコトを為すこと)”の意義を詳述することが達成され、「災害ジャーナリズム論」の足掛かりを築くことができた。 実践的研究においては、当初、主たる対象として設定していた調査フィールド―和歌山県広川町―よりも、サブで構えていた調査フィールド―神戸市長田区真陽地区―において、事態が大きく進展することになった。多様な関係当事者―本研究でいうところの“リアリティ・ステイクホルダー”―と共同実践する機会に恵まれ、その成果をふまえた学会発表や情報発信等において、充実した結果を残すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は、理論的研究と実践的研究を、それぞれ第一年度、第二年度に仕分けして計画していたが、実際には、それらが同時並行して進行していくことになった。 第一年度の理論的研究の達成状況は、およそ半分程度と言ったところであり、それまでの成果をふまえて、分担執筆の著書を公刊したところである。国内における主要学会誌における「災害報道」分野の論文を網羅的にレビューするところまではおよそ達成できた。しかし、関連文献が他にも数多く散在していることが確かめられたので、ネクストステップでは、さらなる資料の収集に努めなければならない。 実践的研究においては、サブ・フィールドにおいて、大きな進展が認められた。アクション・リサーチを進めていた神戸市長田区真陽地区において、まず1つ目の成果として、地域住民が主体的に情報ツール―具体的には、津波避難呼びかけ用のトランジスタ・メガフォン―を発案し、その使用法をめぐって模索する過程においてアイデンティティが変容し、(マス)メディアとの関わり方についても再考するという一連のサイクルを観察することができた。またもう1つの成果として、地域の小学校の放送委員が、校内放送を活用して防災に関するコンテンツを放送するという防災学習プログラムを開発することができた。ここでも、参加者のアイデンティティが変容し、(マス)メディアとの関わり方を再考するという同様のサイクル―および、その教育的ポテンシャル―が見出された。 実践的研究に関しては、当初想定していた動きとは異なる展開が調査フィールドで生成しているともいえるが、このことが、かえって多くの考察すべき事項を明らかとし、学会発表等においても多様な議論を展開することにつながった。
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Strategy for Future Research Activity |
理論的研究も実践的研究も、インプットとアウトプットのバランスが鍵となる。 まず、理論的研究では、レビュー論文の執筆をすることで、到達点を確認・整理する作業が求められる。あわせて、すでに分担執筆をなした「災害報道における“コミットメント”」の意義を、さらに一歩深めた論考を著す予定である。これは第二年度―最終年度―内に公刊する予定である。 実践的研究は、アクション・リサーチの手法をとっているため、明確なエンド・ポイントを定めることが難しいが、これまでに見出された観点―リアリティ、ローカリティ、アイデンティティ、アーティファクト―の相互作用に関して、取り急ぎ、論考をまとめていく必要がある。また、成果発信に関しては、当初の計画どおり、ラジオ番組による発信を基軸として複数回予定している。 なお、実践的研究のメイン・フィールドとして構えていた和歌山県広川町では、この春、役場の防災担当者が異動になるなど、当該研究を推進する上で、ひとつの課題に直面している。そこで、町の防災拠点のひとつである「稲むらの火の館」と連携する体制づくりを今一度、模索している。メイン/サブの位置づけ方は、研究者側の都合によるところも大きいため、事態が転換する局面を常に想定して研究を推進していかなくてはならないと考える。
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Research Products
(9 results)