2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
26883001
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山本 明子(村上明子) 北海道大学, 経済学研究科(研究院), 助教 (50735826)
|
Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
|
Keywords | 女性労働 / 性別役割 / イスラーム / 労働市場 / 社会貢献活動 |
Outline of Annual Research Achievements |
独自の内発的発展理論を掲げる現代イランでは,男女の役割や社会的配置がイスラーム・ベースの世界観によって導き出されている。申請者はこれまで,同国女性が係わる労働市場を対象に現地調査を行ってきたが,その全体構造を解明するにあたり統計的な評価と実態が大きく乖離しているという問題がある。 こうした“女性の活動の見えづらさ”には,イスラーム的価値観が大きく影響しているため,イラン女性の活動状況を把握するためには,労働市場のみを対象とするのではなく現地の思考様式と生活実態を考慮した調査設計が重要となる。本研究はテヘラン市を主なフィールドに,私的領域や地域社会におけるイラン女性の活動全般の事例分析を重ね,それと同時に労働市場への関与のあり方も検討することで,同国における女性の社会的配置の解明を目指すものである。 以上の問題関心をもとに,今年度は2度(第1回目:2014年9月,第2回目:2015年2月~3月,調査期間はそれぞれ2週間)の現地調査を行った。第1回目の調査では,主婦・学生・就業者などさまざまな活動状況の女性を対象に,ライフヒストリーや家事の負担状況ならびに余暇活動に関するアンケート調査を行った。なおこの調査では,テヘラン市の特徴を相対化するために,地方都市に住む女性からも回答を募った。この調査結果をもとに,第2回目の調査ではテヘラン市でNGOや宗教施設との結びつきが強い伝統的な慈善組織における女性の活動状況を検討するべく,インタビュー調査を行った。 二度の調査を通じて,市場外での財・サービスのやり取りにイスラーム的価値観が少なくない影響を与えていること,思考様式と行動パターンについては在来のものと外来のものが相互に作用し合い社会状況を改善させるための活動が促進されていること,そして統計上は主婦と分類される人々が社会貢献活動に活発に関与していること――以上の事実が確認された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では,第1回目調査で「大学生」,「就業者」,「主婦」といった活動カテゴリーを念頭に置き,それぞれの基本属性の特徴,活動状況の把握と傾向分析,今後のライフコースの設計を検討し,第2回目の調査で家庭内における意思決定プロセスやそこでの裁量の実態を明らかにしていく予定だった。 しかし第1回目の調査で,普段の生活の中で社会貢献活動に携わる女性が多いことが明らかとなったため,第2回目の調査で「社会貢献活動」にフォーカスして検討することとした。これによって「再生産領域」を家庭内に限定せず,社会的に拡大させて特徴づけることが可能となり,しかもイラン女性が携わる「生産領域/再生産領域」の全体構造の解明が期待される。 このように,分析視角や調査対象を検討し直し,即座に調査設計に反映させたことで,現代イランの社会コンテクストから以下の論点を掴みつつある。一つはコミュニティベースの慈善活動がハレとケの両方をカヴァーしうるよう組織化され行われていること,第二にイスラームに由来する慈善活動が社会保障制度や公的教育制度の間隙を埋める役割を果たしていること,第三にかかる状況はイスラーム共和制という独特の政体の下で活性化していること,そして様々な女性の活動ニーズをカヴァーし,且つ女性の潜在能力が有機的に活用されていることである。 「イラン女性について生産領域と再生産領域という両側面からのアプローチを通して,その現代的特徴の解明」を目指すという本研究の目的意識をより深化させる形で調査が進展している。また文献ベースの調査についても,イランにおける社会貢献組織に関する法制度や量的資料の収集・分析を順調に進めている。 以上より,本研究は当初の計画以上に進展しているものと判断される。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の課題として第一に,社会貢献活動を提供側だけではなく受容する側の状況も合わせて検討することが挙げられる。また,こうした社会貢献活動を次期5ヵ年計画で重点的に促進するための議論が進められている。したがって,かかる活動の管理と活用に関する政策体系の把握も重要となる。加えて,イスラーム的倫理観やそれに基づいた性別役割規範と社会貢献活動がどのように作用し合っているのか,また生産領域/再生産領域における活動の連関性など,課題の全体構造を明らかにする上で検討すべき論点も多い。 他方で,イラン独特の現地事情もあり,調査の実施が予定通りに進められるかどうかといった懸念がある。この点については,現地の研究機関とやり取りを重ね信頼関係を構築し現地調査の際には身分を保証してもらう,オンライン上で実施可能な調査については積極的にそうした方法を採用するなど,調査・研究する上で懸念されるカントリーリスクのマネジメントにも積極的に取り組んでいくものとする。なお,既にイスラーム系の現地研究機関とのやり取りは進めており,良好な返事を受け取っている。 より多くの事例を検討することで具体的な状況を把握し,イラン女性の活動実態を明らかにしていきたい。
|