2014 Fiscal Year Annual Research Report
人類史における国家形成プロセスの解明にむけた理論と実践の基盤構築
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26884006
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
有松 唯 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (60732112)
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Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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Keywords | 国家形成論 / 西アジア古代史 / 物質文化 / イラン |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究構想を通底する理論の整理・構築、実証研究にむけての資料とフィールドの確保を第一に、活動を行った。 構想を通底する国家形成の理論的基盤については、あらたな西アジア古代史観とあわせて単著にまとめ、審査を経て出版が決定した。そのなかでは、近年の国家理論また過去社会および民族事例から導かれる実際として、国家は技術や文化の進歩があっても自生するとは限らず、むしろ例外的現象であることを指摘した。その上で、国家的機構は生態と人類社会の基本単位(世帯や共同体)との日常的相互作用のなかで生成されるなにものかであり、国家の形成は基本単位が自明的に基層化されている様態として理論化できることを提示した。従来の国家観では、西アジアにおける国家の初現と発達は、メソポタミア地方における累積的な社会・政治発展を前提としてきた。しかし実際、該当時期の社会変化はカタストロフィが頻発する非線形の歴呈で、累積的進化は想定できない。さらに、起点として重視されてきた農耕や都市は国家形成の必要十分条件ではない。明らかな画期は、アケメネス朝ペルシャ形成に表象される前1千年紀における統治機構の変質だと考える。多民族を包括統治する領域と新たなしくみの出現、勢力の揺籃地がイラン地域へと移行することからも、歴史基軸の不可逆的転換期と評価できる。 実証研究ではこの視点に沿って、イランに由来する広島大学所蔵考古資料の整理・分析に着手した。本年、当資料の一部にもとづく成果が国際誌上で出版され、資料総体の学術的価値を向上させることができた。そこでは、アケメネス朝形成前夜(前8世紀)における、生態的多様性を包括する規模での儀礼様式と生活様式の斉一化を画期として指摘している。広島大学所蔵資料は以降も分析の中核を成すが、研究資源としての国際的評価を本年度獲得できたことから、今後の成果についても期待がもたれる状況を整備できたと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は理論研究を想定以上に達成することができた。初年度に出版を確定することができたのは、おおきな成果と考える。しかし、そうした理論研究の進捗に対し、実証研究にむけてのデータの整備に遅れが認められる。本計画では理論と実証のフィード・バックを重視した研究の進展を重視している。一方の遅れは、計画の遂行に際しバランスを欠いた結果と判断せざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、「研究実績」項で述べた斉一化現象の原理的解明と史的評価を進めるための、実証データの獲得を重視し、計画を推進する。 まずは、広島大学所蔵遺物について資料化の作業を完了し、出版にむけての形を整える。加えて、現象の推定起源地(イラン・イスラム共和国北東部)でのフィールド・ワークの着手を目指す。広島大学所蔵資料を分析する中で、現地での新規データ獲得の重要性を再認識するに至った。特に年代測定用試料の採取は必須であると考える。現地調査の実現は国内外に向けての学術的・社会的意義もあり、実現に向け尽力する価値はあると考える。現地情勢鑑み、慎重にならざるを得ないが、現地関係者とのパーソナル・コミュニケーションのレベルでは好意的な返答を得ていることから、前向きに可能性を模索したい。
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Research Products
(4 results)