2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
26884009
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
桑原 俊介 東京大学, 人文社会系研究科, 教務補佐員 (30735402)
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Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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Keywords | バウムガルテン / 美学 / 真実らしさ / 蓋然性 / 論理学 / エイコス / 詩学 / 演劇論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、バウムガルテンの美学の成立条件のひとつを、17世紀中葉以降の論理学における蓋然性概念の変容に見定めることを試みるものである。本年度の研究は、大きく四つの部門からなる。
第一に、ギリシア以来のとりわけ論理学と詩学における endoxos, eikos, probabilitas, verisimilitudo概念の歴史的系譜を概観した。 それにより、これらの概念は、論理学、修辞学、詩学という三つの系譜に大別されうること、また、これらの系譜においては、上記概念が、一部は「第二の真理」として、一部は「偽」として、演繹的な真理とは質的に区別されることが明らかとなった。 第二に、17世紀中葉以降の確率論革命と、それに基づく論理学における蓋然性概念の新しい規定を研究した。「蓋然性の論理学」というライプニッツの構想は、トマージウス、ヴォルフ等の論理学において整備され、そこでは蓋然性・真実らしさが、従来のように真理と質的に区別されるのではなく、ライプニッツの充足理由率の不完全性として、真理との質的連続性に置かれることになる。 第三に、フランス古典演劇理論におけるvraisemblance(真実らしさ)概念の研究を行った。そこでは特にシャプラン、コルネイユに注目したが、当概念は、観客の予念との一致として観客への効果・作用に基づけられるのみならず、さらに人間のあるべき姿としての当為(devoir)を含意することが明らかとなった。またコルネイユにおいては、可能(pouvoir)という含意が重要性を増していることも判明した。 第四に、以上の論理学、演劇論(詩学)からの系譜が、バウムガルテンの美学(および論理学)にどのように適用されたのかを検討した。この研究に基づき、学会発表(第65回美学会全国大会 九州大学)および研究会発表(〈啓蒙とフィクション〉研究会 東京大学駒場キャンパス)を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、本年度は上記計画の第三までを実行予定であったが、実際には、次年度に予定していたバウムガルテンの美学にまで研究が進んだためである。
ただし、本年度の研究を通じて、本研究の主要テーゼの大きな変更を迫られた点が指摘されねばならない。当初の計画では、確率論革命を通じた蓋然性概念の新規定、ならびにそれによる学問(の条件)の拡張が、バウムガルテンの美学の成立のひとつの学問論的・知識論的条件となったというテーゼを掲げたが、上記学会発表ならびに論文投稿に伴う査読(『美学』246号)を通じて、テーゼを一部修正する必要に迫られた。具体的には、確率論革命による蓋然性概念の変容は、美学の中でもとりわけ美的真理・美的真実らしさの項目の規定に関わるのみであり、美学の全体としての学問的条件には直接的には関与しないという点が明らかとなった。それにより本研究は、蓋然性・真実らしさ概念が、バウムガルテンの美学、とりわけ美的真理・美的真実らしさの概念にどのように継承されたのかを系譜学的に明らかにすることを限定的な課題とした。研究計画でも、主要テーゼは仮設として提示し、テーゼが変更される可能性に言及したが、このような修正の必要性は、本年度に行われた具体的な研究によって、蓋然性・真実らしさ概念の歴史的系譜を詳細に検証し、その微細な差異性を明確化しえたために可能となったものである。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究が計画以上に進展したため、次年度では、計画でも示した通り、上記研究を補強・強化する研究としての「可能性」概念の研究に着手する。それは四点からなる。
第一に、詩学(演劇論)からの系譜研究をより強化する。本年度は主としてフランス古典演劇理論におけるvraisemblance概念を研究したが、次年度は、それに続くドイツ語圏の詩論、とりわけゴットシェート、スイス派に関する研究を行う。ドイツ語圏の詩論は、フランス古典演劇理論に見られた当為から可能へという系譜に連なるものであり、そこではライプニッツに着想を得た詩の可能世界論が展開される。 第二に、論理学・形而上学における様相論の一環として可能性概念の研究を行う。まずは、アリストテレスの『形而上学』『詩学』、ならびにトマスにおける可能性概念を研究する。その上で、ライプニッツにおける可能世界論、つまりそれが、矛盾律と充足理由律という真理条件とどのように関わるのか、そしてそれが蓋然性の条件とどのように関わるのかを明らかにする。そして最終的に、ライプニッツの様相論および可能世界論が、ヴォルフの形而上学・論理学においてどのように体系化・形式化されたのかを明らかにする。 第三に、バウムガルテンの「美的真理」概念を検討する。美的真理は、美的真実らしさと密接に関わる概念であり、この概念の内実規定、さらには歴史的系譜に即した位置づけは、計画には記さなかったが、本年度の研究を通じて明らかになった本研究に必須の課題である。 第四に、第一の真実らしさ概念、第二の可能性概念が、バウムガルテンの美学に継承された経緯、さらにはその内実を明らかにする。そこでは、第三をベースとして、特に美的真理・美的真実らしさの条件の問題、さらには虚構(可能世界)における真理と真実らしさの条件の問題が問われることになる。これらの研究に基づき学会発表を行い、学術論文を執筆する。
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Research Products
(2 results)