2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
26884011
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉田 俊一郎 東京大学, 人文社会系研究科, 助教 (00738065)
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Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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Keywords | 西洋古典学 / 修辞学 / ラテン語 / ラテン文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、修辞学校での教育としての模擬弁論の実態そのものに言及している文献の研究を行なった。大きく扱ったのは、帝政初期の大セネカの著作と、クインティリアヌスの名で伝えられる『小模擬弁論集』である。後者は様々な主題に基づく模擬弁論(の一部)の集成であるが、それだけではなく、個々の主題をどのように弁論すべきかを教師が生徒に説明している「講話」と呼ばれる部分が付属しているという点で特に貴重な価値を持つ。この他、クインティリアヌスの『弁論家の教育』やタキトゥスの『弁論家についての対話』といった、紀元後100年前後の修辞学文献において学校教育に言及している部分も考察の対象とした。また、狭義には修辞学的と考えられない文献の分析も行った。ペトロニウスの小説やユウェナリスの諷刺詩などにおける当時の風習の活写もまた、修辞学校の実態を示唆する貴重な資料だからである。 本年度はまずこれらの文献から、修辞学校における模擬弁論による教育に言及している箇所を全て抜き出し、その内容と文脈の理解に努めた。ここにおいては、模擬弁論や当時の修辞学の有効性や健全性は、当時の修辞学的著作やその他の文学において好まれたいわば定番の話題であり、そこで行なわれている議論がどこまで実態を反映していたかについては、個々の著作家の専門的な研究も参照して、文脈の慎重な把握を行なった。その後、そこに見られる記述を総合して、ローマ帝政期の修辞学校における模擬弁論が教育の道具としてどの程度、またどのように機能していたのかについて、包括的な記述を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画に基づいて、修辞学校での教育としての模擬弁論の実態を伝える文献から、修辞学校における模擬弁論による教育に言及している箇所を全て抜き出し、その内容と文脈の理解に努め、そこで行なわれている議論がどこまで実態を反映していたかについて文脈の慎重な把握を行ない、ローマ帝政期の修辞学校における模擬弁論の教育手段としての機能について包括的な記述を試みることができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的である、ローマ帝政期における修辞学教育の実態の解明のためには、既に予定したように、修辞学文献や文学において修辞学校での教育に言及している箇所の考察と、現存の模擬弁論自体の内部構造の分析とが共に必要である。これまでの研究で前者についてはある程度の成果が得られたので、引き続いて後者について、これまでと同様に当時のテクストの丹念な分析に基づいて行っていく必要がある。
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