2014 Fiscal Year Annual Research Report
ニュルンベルク、ザンクト・ロレンツ聖堂の空間分析―ネット・ヴォールトと彫刻の関係
Project/Area Number |
26884020
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
岩谷 秋美 東京藝術大学, 美術学部, 助手 (10735541)
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Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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Keywords | ファイト・シュトース / ニュルンベルク / ゴシック彫刻 / ゴシック建築 / ドイツ美術 / ヴォールト / 後期ゴシック |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ゴシック後期に建設されたニュルンベルクのザンクト・ロレンツ聖堂の内陣について、ネット・ヴォールトという建築要素と、彫刻家ファイト・シュトースが手掛けた彫刻《天使の挨拶》とを総合的に考察することで、第一に、この空間にたいして関する造形上・図像上の新たな解釈を提示し、第二に、建築の文脈から彫刻制作のプロセスを捉えなおすことを目的とするものである。初年度にあたる平成26年度は、研究計画に従い、ニュルンベルクのザンクト・ロレンツ聖堂での調査とあわせて、南ドイツ語圏に残るネット・ヴォールトおよび祭壇彫刻を広く調査した。 本年度の第一の成果は、調査を実施した南ドイツ語圏(バイエルン、バーデン・ヴュルテンベルク、チロル)におけるおよそ50点の聖堂を、祭壇彫刻等もふくめてカタログ化した点にある。ここには、作品の細部まで記録した貴重な資料や、日本ではほとんど知られていない作品ども多く含まれる。これを、筆者がすでに作成していた聖堂カタログとあわせることによって、ゴシック後期における聖堂空間を広く把握することが可能となった。 第二の成果は、研究動向の把握である。文献研究も順調に進んでおり、あわせて、ウィーンの美術史美術館で開催された展覧会は、後期ゴシックの彫刻・絵画に関する最新の研究に触れる良い機会となった。こうした成果は展覧会評という形で総括したので、平成27年度の公開を目指したい。 第三の成果は、上記の現地調査と文献研究を通じて、聖堂空間と祭壇彫刻等の関係性に関する研究が進展した点である。中でも、筆者が仮説として指摘していた、ゴシックからルネサンスへの移行期における、建築と彫刻の関係性が、改めて確認される結果となった。ゴシックからルネサンスへの移行期の美術は、解釈の難しい分野のひとつであるため、新知見の提示は非常に重要なものであり、ゆえに来年度も引き続き考察を深めていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は、ほぼ計画通りの現地調査を実施することができた。具体的には、まず9月、南ドイツにおいて、ブラウボイレンなどおよそ20の市町村を巡り、ゴシック後期を中心とした中世の聖堂を訪れ、そのヴォールトや彫刻、その他の内装装飾を調査した。あわせて、ニュルンベルクの国立ゲルマン博物館、および、ミュンヘンのバイエルン州立博物館が所蔵する後期ゴシック作品の彫刻・絵画作品を調査するとともに、ミュンヘンの中央美術史研究所にて資料収集に努めた。さらに3月には、チロル地方のゴシック後期の聖堂にて内装装飾に関する調査を実施するとともに、インスブルックのチロル州立博物館や、ウィーンの美術史美術館、アルベルティーナ版画素描館等の彫刻・絵画・版画・素描作品を調査した。あわせて、ウィーン大学の図書館および美術史研究所、オーストリア国立図書館にて資料収集に努めた。 以上の現地調査の成果を受け、まずは調査した聖堂等およそ50点の作品をカタログに追加し、本研究の基礎資料とした。また、ファイト・シュトースをはじめとする、ドイツ後期ゴシックの彫刻に関する文献資料を十分に収集することができた。 こうした基礎調査を踏まえた上で、聖堂空間と祭壇彫刻等の彫刻作品との関係性について考察を進めた。その結果、本研究の目的であった、ゴシックからルネサンスへ向かう発展については十分な作例を収集できたのに対し、空間の図像的解釈の可能性を検討するためには、さらなる作例の収集が必要であることがわかった。これを補うべく、次項目に記したとおり、平成27年度、フランスを含めた広範囲な調査を行うことにする。 以上のとおり、多少の計画修正を要するものの、全体として調査は順調に進んでおり、したがって今年度の研究目的はほぼ達成できたと考えた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の研究計画や研究方法には、後述の研究対象に関する計画修正を除いて大きな変更はなく、計画通り、ザンクト・ロレンツ聖堂内陣における空間演出の、その背景や目的を考察する。第一に、内陣空間の内装を構想するに際して重視されたと考えられている聖母図像について、特にロザリオ信仰に注目しつつ作例を収集し、考察を加える。第二に、ルネサンス都市としてのニュルンベルクというコンテクストの中に本聖堂を位置付けることで、内陣空間が設立した背景を再検討する。 上述した研究対象の計画修正とは、以下のとおりである。平成26年度9月で実施した南ドイツでの作例収集が期待以上に進み、平成27年度に行う予定であったバイエルンでの調査も半分ほど消化することができた。そこで平成27年度は、当初は時間が十分に確保できないと思われたため割愛していた、ゴシックの発祥地であるフランスの作例も調査対象に加えたい。これにより、研究目的である、聖母図像の分析やヴォールトの造形分析、また、聖堂の空間分析について、より多角的な視点からの考察が可能になることが期待される。 平成27年度はさらに、内部空間創出の歴史的背景を探るべく、16世紀の史料を翻訳するほか、成果を論文等に総括して発表する予定である。
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