2014 Fiscal Year Annual Research Report
ロシア・アヴァンギャルド芸術における音声の複製技術の影響
Project/Area Number |
26884061
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
八木 君人 早稲田大学, 文学学術院, 講師 (50453999)
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Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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Keywords | ロシア・アヴァンギャルド / ロシア・フォルマリズム / 音響複製技術 / 文学理論 / シンボリズム / アクメイズム / 立体未来派 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度9月から助成を受けた本研究の遂行にあたり、計画通り、大学授業期間中は、マイクロフィルム(シリーズ”Russian Theater in the early 20 century”やシリーズ“Early Russian Cinema”など)に含まれるフォノグラフやグラモフォンに関する記事を調査・検証した。また、春季休業期間中にあたる3月にはモスクワへ出張し、ロシア国立図書館およびロシア国立文学・芸術文書館を訪れ、主に次のような資料の閲覧・複写を行った:雑誌『声とことば』(1912~1914)、論文集『DE MUSICA』(1923)、エイヘンバウム「芸術の言葉について」の手稿、エイヘンバウム『ロシア抒情詩の旋律学』の基となった口頭報告の原稿。これらモスクワ出張の際に入手した資料についての読解は今後の課題となるが、とりわけエイヘンバウムの口頭報告の原稿を見られたことは、本研究課題の端緒となった「ロシア・フォルマリズム理論における複製技術の影響」という申請者がこれまで取り組んできた研究をさらに深めることができそうな資料であった。この資料に基づき、平成27年度8月に行われるICCEES幕張大会にて、本研究成果の一部として研究報告を行う予定である。 また、平成26年度に行った研究の成果を踏まえて明らかになったのは、申請者はもともと「声」と「音」という対置の中で音響複製技術の問題を捉えようとしていたが、ここに「音楽」と「ノイズ」という二つの要因を加えるべきだということだ。これは、徒に要因を増やして複雑化するわけではなく、音響複製技術の到来によってかわったイデーとしての「音楽」の変化を追うことで、1910年代から20年代にかけての詩人における「音」の意義について明らかにすることができると考えるからである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の採択決定が平成26年9月だったことと、着任初年度ということで校務にかかずらっていたため、率直にいって、研究課題の遂行はやや遅れている。そうした事態を見越して、研究計画では、「2.詩を中心としたロシア・アヴァンギャルド諸芸術における音声の複製技術の影響」に重点をおいて検証することを掲げたが、当該期間中には十分に遂行することができなかった。但し、現実的な状況を踏まえ、当該期間中は資料収集に集中したため、今後の研究にあたって十分な資料を集められたのも事実である。従って、平成27年度はそれら資料の読解・検証を進めていき、上述した通り、まず、8月に催されるICCEES幕張大会にて本研究課題の成果の一部を口頭報告する。この報告についてはすでに十分に研究を進めており、内容的な見通しもたっているため、平成27年度前半はその準備と並行しながら、11月に開催される日本ロシア文学会研究発表会でも本研究課題の成果の一部を報告すべく、研究を進めてきたい。また、平成27年度中にはこれら成果を文章化し、学術誌に投稿する予定である。 当該年度における望外の成果として、モスクワ在住のある研究者との学術交流の中で、一般には公開されていない、本研究に関わる資料の情報を得たことも挙げられる。資料の性質上、具体的に述べることはできないが、それは、本研究にとっても重要な位置を占める著者の大量のアーカイブ資料の存在であり、現時点ではその内容目録を把握しているのみだが、公開されたあかつきにはいち早くアクセスする道筋をつけられたのは、大きな成果であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の研究成果を踏まえ、平成27年度は研究計画で挙げていた「2.詩を中心としたロシア・アヴァンギャルド諸芸術における音声の複製技術の影響」の研究に焦点を絞り、優先的に行っていく。その際、上で述べたように、「声」と「音」の対置のみならず、「音楽」と「ノイズ」という要因を組み込んで、研究課題に取り組んでいく。 少なくともこれまでの研究を通して明らかになってきているのは、この時代の詩人における「音声の複製技術の影響」について直接的に明らかするような資料は乏しいということだ。例えば、1915年に、フレーブニコフ、マヤコフスキー、アセーエフといった詩人たちの朗読が収録されたオーディオ・ブックの販売広告が雑誌に出されているため、詩人たちが音声の複製技術の可能性について視野に入れていたことは確実だと思われるが、具体的にそれに対して個々の詩人たちがどのような態度をとったのかが明らかになる資料は少ない。そのため、芸術創作への音声の複製技術の影響を浮き彫りにするには、シンボリズムの詩人の芸術的な理念でもあった「音楽」という観念が、その後、未来派、アクメイズムといった詩人たちの中でどのように捉えられていったのか、また、詩人のみならず、他の芸術ジャンルにおいて理念としての「音楽」がどのような変化を蒙っていくかを検証することが一つの有効な方策ではないかと考えるに至った。この方向で研究を行うメリットはもう一点ある。それは、詩人における「音声の複製技術の影響」という作家個人の影響問題に帰着してしまう恐れのある研究が、「音楽」を媒介にすることで、芸術史におけるイズムの変遷・混在と相俟って、ある程度、時代的な連続性の中で「影響」を説得的に明らかにすることができるだろう点である。
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