2014 Fiscal Year Annual Research Report
1870年代フランス文学・芸術のパラダイム再考:シャルル・クロを起点として
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26884074
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
福田 裕大 近畿大学, 法学部, 講師 (10734072)
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Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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Keywords | フランス文学 / 文学史 / 文化史 / 思想史 / シャルル・クロ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、1870年代のフランスの文学・芸術・思想にかんする先行研究のなかで見過ごされてきた複数の人物を取りあげ、彼らの業績についての知見を端緒として、上記の年代に見られた知的・文化的実践の変容を捉えなおすことである。実施初年度となる平成26年度に行った研究内容は以下の通りである。 (1)基盤的作業として、代表者がこれまで専門的に研究してきた「詩人にして科学者」シャルル・クロの長兄であり、医師業と並行して複数の哲学書を著したアントワーヌ・クロの業績を中心とした調査をおこなった。具体的には、この人物が1874年に著した『神経システムの高位機能』の読解のうえに、当時普及していたいくつかの科学雑誌にかんする分析を重ねることで、当時のフランスに普及していた生理学や哲学の文脈を再検討した。そこから見えてきたのは、従来ならば「実証主義」の一語で片付けられてしまいがちなこの時代のなかで、前世紀の感覚論の系譜、ならびに、イギリス・ドイツ・フランス等でで十九世紀初頭来開拓されてきた神経生理学の知見を柔軟に取り込んだ、興味深い人間観(あるいは身体観)が形成されつつあったということである。 (2)そこから、文学や芸術、あるいは技術開発など、当時なされていた広義の創造行為のなかで、上記のような身体観がどのような影響を与えていたかを考察するために、さらなる文献・資料調査をおこなった。実際にの対象としたものは、(a)1870年代の後半にかけて登場した、音響再生産技術と結びついた新たな音の文化、ならびに、(b)いわゆる印象派と、それに後続した新印象派と呼ばれる絵画運動の二点である。これらの成果のうち、(a)についてはシンポジウム「声と文学」における口頭報告、ならびに、『音響メディア史』(谷口文和・中川克志との共著。印刷済み)の執筆箇所で公表している。また、(b)についても近く研究会発表を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は八月末からの採用ということで研究期間はやや短かったため、全般的にみて調査の内容が概括的なものになってしまったところは否めない。反面、上記の通り一定の基盤的研究をなすのみならず、そこで得た知見を個別事象の分析に導入するところまで進むことができた。実際の成果としては、音響メディアにかんする研究成果を書籍として刊行しえたことは大きい。上述の(a)にかんしては計画当初予想していなかった展開であったため十分な研究進度に達しているとはいい難いが、印象派や新印象派といったメジャーな文化事象を微視的な視座から捉えなおすための展望を得たことは有意義であったように思う。
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Strategy for Future Research Activity |
予定通り本年度は、シャルル・クロの関連人物たちにとっての交流の場となったサロンにかんする文書を精査し、そこでなされていた人的交流を捉えることによって、1870年代の文学・芸術の潮流を再考する。中心的な調査対象とするのはニナ・ド・カリアスのサロン、ならびにカミーユ・フラマリオンのサロンである。複数の研究書・二次文献のほか、フランス国立図書館での資料収集の成果をも取り込みながら、上記のサロンに集う人々が共有した知的・文化的パラダイムの把握を試みたい。 以上のような調査の結果を前年度の成果と総合し、そこから浮かびあがる「シャルル・クロを結節点とした1870年代の知のネットワーク」と呼びうるものを、既存の一般的な文学史・芸術史と比較したうえで、後者のうえに補填しうる空隙、刷新しうる展望が認められるかどうか検証する。フランス文学研究をはじめとする複数領域の研究者に対し、彼らの関心に応じうる開かれた成果公表のありかたを模索しつつ、 成果公表をめざす。
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Research Products
(2 results)