2014 Fiscal Year Annual Research Report
脱北女性の「脱北過程経験」と韓国社会への適応に関する社会学的考察
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26885069
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Research Institution | The University of Shimane |
Principal Investigator |
尹 珍喜 島根県立大学, 総合政策学部, 研究員 (60732253)
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Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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Keywords | 脱北女性 / 脱北動機 / 韓国社会への適応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、脱北女性の「脱北過程経験」が彼女らの家族関係や韓国社会への適応にどのような影響を与えているかについて、当事者への対面聞き取り調査を通じて明らかにすることにある。 今年度は、韓国と日本における北朝鮮及び脱北者に関する書籍や資料の収集、第1回目の韓国在住の脱北女性への対面聞き取り調査、調査で得られたデータの分析及び論文の作成という作業を行った。 その結果、韓国在住の女性脱北者の脱北動機において、従来の政治的理由や生活の困難に還元できない脱北動機の多様化が窺われた。具体的には、より安定的な生活や行動の自由を求めたり、子供の将来を考慮したりしたことを理由にする脱北が現れているのである。 こうした脱北動機の多様化が見られる中で、特に「直行」の登場は注目に値する。従来の脱北は、生活の困窮を動機とし、韓国へ至る過程においては長期の中国滞在が典型とされていた。だが「直行」と呼ばれる脱北は、当初から韓国行きを目的としているがゆえに、中国滞在はごく短期間である。その背景には、北朝鮮の一部において韓国社会の認識の変化がみられることに加えて、すでに韓国に脱北をしている家族から北朝鮮に残された家族に伝えられる情報がインパクトを持って受け入れられている実態がある。その意味で脱北過程における「直行」の登場は、脱北という人的移動の動向に大きな変化をもたらす端緒となる可能性があることが明らかになった。 また、韓国社会への適応に関しては、北朝鮮から韓国へ「直行」で脱北する者の中には、すでに脱北に成功して韓国に定着している家族による呼び寄せの場合が多いため、家族への支援によって韓国社会に適応しやすい側面が窺えた。しかし一方では、韓国に対する過剰な期待を持ち、中国で不法滞在者として苦労の経験がなかったため、韓国社会への失望感をより強く抱き適応に困難が生じる場合も存在したのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度に予定されていた資料の収集や脱北女性の当事者への聞き取り調査を行い、その分析が順調に遂行され、論文にまとめることができたから。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度には、現地(韓国)調査のための打ち合わせ、第1回目の対面聞き取り調査の補足、第2回目の対面聞き取り調査、データのテキスト化・整理・分析、得られた成果の発表、論文の作成を行う予定である。
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Research Products
(1 results)