2014 Fiscal Year Annual Research Report
情報提供義務違反に対する救済と契約解釈の接合に関する一考察
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26885072
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Research Institution | Ryutsu Keizai University |
Principal Investigator |
大塚 哲也 流通経済大学, 法学部, 講師 (10734246)
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Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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Keywords | 情報提供義務 / 説明義務 / 契約締結上の過失 / 契約解釈 / 契約内容の確定 / 正当な信頼 / 不法行為 / フランス法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究においては、主としてフランスにおける近時の不法行為法に関する議論の分析を行った。これは、フランスにおける契約法、とりわけ契約締結過程における責任の理論の発展においては、不法行為法に関する議論が大きく寄与していると考えられるからである。実際に、ドイツ法においていわゆる契約締結上の過失の問題として扱われている事案の多くのものはフランス法においては不法行為の問題として扱われており、このことにも、フランスにおける不法行為法の果たす機能の重要性が現れているということができる。 具体的には、フランスにおける不法行為責任の内容に関する議論について分析を行った。この分析により、次の事項を明らかにすることができた。すなわち、フランスにおける不法行為法においては、ドイツ法と異なり、不法行為の要件効果に関する一般規定が置かれているという点で、我が国の民法の構造と非常に類似しているものの、そこには完全賠償の原則が採用されていること、金銭賠償ではなく現物賠償が原則とされていること、および被害者の救済のみならず加害者に対する制裁という観点が重視されていることなどといった差異も存在しているということである。 このうち、加害者に対する制裁という観点が重視されていることは、本研究の課題である契約締結過程における情報提供義務違反に対する制裁のあり方との関係でも重要である。なぜなら、フランスにおいて、情報提供義務違反に対する制裁として被害者の信頼の契約内容への取り込みという救済が主張される場合、その根拠として、このような救済が加害者に対する制裁として適切なものであるからだという点が指摘されることが多いからである。 したがって、フランスにおける不法行為法の機能として加害者に対する制裁の観点が重視されていることの意義についてさらに検討を進めていくことが必要となるものと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題についての当初研究契約においては、中心的な課題としてフランス契約法における原理的な探求を行うことを予定していたが、本年度の研究の大部分は前述のようにフランスにおける不法行為法の研究に費やすこととなった。もっとも、これは、フランス不法行為法における議論の特色を分析することが契約法における原理的探求にとって必要不可欠であると考えたことによるものである。 実際に、今後行うことを予定しているフランス契約法における基本原理の探求および契約締結過程における情報提供義務違反に対する救済のあり方を探る上でも、本年度の研究で明らかにすることのできた不法行為法における加害者に対する制裁という概念の重要性は極めて示唆に富むものであるということができる。 以上のように、本年度の研究の成果は今後の研究において非常に重要な意義を有するものであるということができることから、本研究課題に関する本年度の研究は概ね順調に進展しているものと評価することができる。 なお、本年度は本研究課題についての研究初年度であったことから、現時点ではまで、本研究課題に関する成果を論文の形でまとめるに至っていないが、次年度以降、随時論文の形で研究成果を公表していくことを予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題についての今後の研究推進方策としては次のことを考えている。 第一に、本年度の研究成果をさらに発展させ、フランス法における法発展についての不法行為法の役割について、不法行為法の理論構造を基礎として分析していきたいと考えている。これは、フランス法においては不法行為法を支える基本原理が契約締結過程における責任の問題に対して非常に大きな寄与を果たしているものと考えられるからである。これを明らかにすることにより、契約法の基本原理を探求することの足がかりを築くことができるものと言えよう。 第二に、以上のような不法行為法の基本原理の探求に引き続き、フランス契約法の基本原理の分析も行っていきたいと考えている。これはまさに本研究の核心部分をなすものである。この基本原理を解き明かすことにより、情報提供義務違反遺体する責任の問題と契約内容の確定法理(契約解釈)との接合の可能性について検討していきたい。 第三に、フランス法における契約法の基本原理について、EUレベルでの契約法に関する議論やドイツにおける契約法の基本原理との比較を行い、そこから得られた成果をわが国の契約法の解釈論へ結びつけることができれば本研究の当初の目的を十分に達成することができるものと考えている。 なお、以上の研究成果については論文の形で公表することを予定している。
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