2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
26885089
|
Research Institution | Musashino University |
Principal Investigator |
深谷 健 武蔵野大学, 法学部, 講師 (50737294)
|
Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
|
Keywords | カルテル / レントシーキング / 集合行為コスト / プリンシパル=エージェント / 規制政治 / 選挙制度改革 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、政治と経済の交錯する領域を対象とし、特に規制の再構築による「保護と競争」という相容れない目的を内包する現代日本の生産者カルテルの不安定性を、産業の動態を含めて実証的に分析するものである。これにより、以下の点を明らかにすることを目的とする。第1に、従来、特殊利益に基づく生産者中心の政策形成が指摘されてきた日本の規制政治を対象として、その生産者カルテルの揺らぎの実態と多様化を実証的に示す。第2に、こうした多様性を生み出す政治的論理を解明する。そして第3に、その変化の政治学的意義として、政官業関係におけるプリンシパル=エージェントモデルを再解釈し、その適用条件を提示することである。政治学においてもこれまでプリンシパル=エージェントモデルのゆらぎへの問題認識はありつつも、その検討は未だ不十分であるにように思われる。本研究は、特殊利益に基づくカルテル(利益連合)のゆらぎに関する実態分析を通じてこの問題に接近することで、知見を提供することを視野に入れている。 以上の研究目的を踏まえ、平成26年度は、主に、データに基づく実際の把握を試みた。特に、日本産業生産性データベース(JIPデータベース)、公正取引委員会「累積生産集度」データ等を用いて、産業セクター別に、特殊利益主体の保持するレントの変化、その内部での集合行為コストの変化(集中度の変化)を、一定の類型を持って把握する試みを行った。これにより、少なくとも、データに裏付けられる「生産者カルテルのゆらぎ」の実態を確認することができた。あわせて、その進捗状況については、学会報告論文としてまとめ、各種学会・研究会での報告を行った。この点で、初年度としては、充実した研究活動を行うことができたと考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね、以下の通り、順調に進展していると考えられる。 第1に、産業データを実際に分析の遡上に載せたことにより、現代日本の生産者カルテルのゆらぎの実態を、多様性を持って把握する試みに道筋を付ける事ができた。政治学的に、当該データを特定することの難しさから言えば、その契機を得られたことは、次年度の研究進捗に資するものであると考えられる。 第2に、理論研究の側面においても、プリンシパル=エージェントモデルにおいて、いかなる場合に、利益集団の集合行為が難しくなるかを、試論的に検討することができた。特に、プリンシパルとしての利益集団が、その集団内部での集合行為を難しくしている可能性を認識したことは、政治的メカニズムの検討において、重要な知見であるように思われる。 第3に、上記の実証・理論部分を合わせて、国内外での学会(日本政治学会、関西公共政策研究会等)にて、研究報告の機会を得る事ができ、多くの参加者より適切なフィードバックを得た。この過程において、本研究の方向の妥当性を確認することができた。 一方で、生産者カルテルのゆらぎを概念的に把握しようとする際、レントや集合行為コストの把握は、現状の操作化(レント:産業生産性、OECDデータをもとにした内外価格差、集合行為コスト:産業集中度)で妥当かどうか、については、データ収集を踏まえて引き続き、検討の余地がある。また、理論面でのゆらぎの政治的論理の構築、実際のケースに基づく分析は、引き続きの研究課題となっている。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究の進捗状況(上記に提示した成果と不十分な点)を踏まえた上で、引き続き、生産者カルテルの多様化の実証分析のため、以下の3点の試みが、求められると考えている。 第1に、産業データに裏付けられる形での現代日本の生産者カルテルのゆらぎを、現時点での操作化方法を踏襲した上で、より精緻に捉えていくことである。ここでは、引き続きの作業にはなるが、産業別にパネルデータセットを作成し、時系列・産業別にゆらぎの実態を把握することが必要となる。 第2に、全体の傾向のみならず、個別の生産者カルテルのゆらぎに関する事例を深堀調査することである。特に昨年度から進めている農業セクターの政治経済に絡めて、特殊利益を維持するための組織化の成否、並びにその政治的影響力の低下を実態として示す事が求められる。ここでは、農業セクターの代表的利益集団たる農協に焦点を当て、データと資料に基づく分析を進めるのみならず、関係者へのヒアリング調査を並行して進めていく予定である。 あわせて、第3に、そのゆらぎの背景にある政治的メカニズムを理論的かつ実証的に明らかにすることである。特に、利益主体たるアクターの選好の多様化を把握する上で、プリンシパル=エージェントモデルにおける「プリンシパルの集合行為問題」を手がかりとして、利益集団内部における集合的意思決定の難しさを検討することが必要になると考えている。 改めて、上記の研究成果を踏まえた上で、日本語・英語双方での研究論文をまとめることが平成27年度の目標となる。
|
Research Products
(5 results)