2014 Fiscal Year Annual Research Report
生命保険における経済価値に基づくプライシング手法の構築
Project/Area Number |
26885098
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
大塚 忠義 早稲田大学, 商学学術院, 助教 (70732478)
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Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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Keywords | 生命保険 / 保険数理 / 保険料計算方法 / 責任準備金 / 経済価値 / 最低資本要件 / 収支相等の原則 / ソルベンシーマージン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、生命保険における伝統的な保険料計算方式に替わるプライシング手法を検討し提言することである。従来の方式は収支相等の原則を基礎とし決定論的な手法に基づいている。この方式は収益性とリスクを考慮していないうえに、予定していない死亡率や金利の悪化に対処することができない。これに対し、新たな保険料計算方式は保険契約を保有するために必要なコストを費用と認識し、それらを外挿する方式を計画している。保険料に外挿されたプロフィットマージンと収益指標中の内部留保額を整合させることによってすべてのセルの収益率を同一にするものである。 研究方法としては、本年度は伝統的な保険料算出方法の問題点と限界を分析し、修正すべき項目を指摘する。また、経済価値基準に基づく保険料計算方法に適用すべき原則を検討し提言する。具体的には、(1)保険契約における適正な収益に係る考察、(2)財務の健全性の維持のために必要な資本コスト、(3)イールドカーブを考慮した予定利率(割引利率)の設定、(4)予定投資収益とリスクの関係に係る考慮、(5)解約率と解約返戻金額をキャッシュフローに加えた保険料計算基準、(6)事業費の各保険契約への合理的な配賦方法に係る考察について研究し一定の結論を得る。 そのうえで、公正価値に基づく責任準備金の積立、健全性維持のための資本コスト、および株主が期待する収益を計算要素に加味した、アキュムレーション法による保険料計算方法を提言する。併せて、この方式を適用する際に考慮すべき原則を検討する。 我が国では生命保険のプライシング手法に関する研究はほとんど行われてこなかった。北米では、1980年代後半に保険料算出方式が伝統的手法からアキュムレーション法によるものに移行して以降多くの研究が行われていることと対照的である。客観性の高いプライシング理論の確立は実業界にとっても望ましいことである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度における進捗はやや遅れている。その理由は、財務の健全性の維持のために必要な資本コストについての分析に際し、経済価値に基づいて財務健全性を測定するソルベンシーマージン規制に関する研究を優先したためである。 ソルベンシーマージン比率は保険会社に対する自己資本比率であるが、現行のものは将来の保険金支払に備えて積立てる負債である責任準備金の十分性を検証していないこと、および比率算出に使用する法定財務諸表が会計や税務の要請から経済的な実態を十分に表わしていないという問題がある。これらは、経済価値に基づいて財務健全性を測定することによって解決することが期待できる。この研究成果は、論文「経済価値に基づくソルベンシーマージン規制の必要性」、図書『経済価値ベースのERM』「経済価値に基づくソルベンシーマージン規制の必要性 第1章」に上梓した。 また、2014年12月より開催されたムーライトセミナー「市場整合的な潜在価値(MCEV)に基づくプライシング」(日本アクチュアリー会主催)に参加し、実務におけるプライシングでMCEVを活用するための研究に参加した。我が国でもMCEVの重要性が認識され、MCEVを公表する会社が増えている。一方で、この分野で先行している北米では、既にMCEVを基準とするプライシングに係る研究が行われている。また、EUでは経済価値ベースのソルベンシー評価に基づく規制に移行することが予定されている。 本研究において、経済価値ベースに加えてMCEVによる収益検証の概念をとりいれることによって、保険契約を保有することでのリスク量とそこからの発生が期待される利益の関係を計量化することとする。そして、これをプライシングの要素とすることによって財務会計基準を基本とする保険料計算方式では、適切に考慮することができない収益性とリスクの関係を定式化することとしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
翌年度の研究活動は論文作成・投稿と学会発表を中心に行う。解決すべき問題点をリスクと収益性の不整合に特定した。伝統的な保険料計算方法はマージンを内包する方式であり、リスクと収益性の不整合に係る問題は保険料計算式中に利益項目が存在しないことに起因する。そして、内包方式に替わる方式として、保険契約を保有するために必要なコストを費用と認識しそれらを外挿する方式を提案する。 内包方式では、保険料算出の過程においてセル(性年齢、保険期間)毎の収益性を確認することができない。収益性は保険料を算出した後に収益検証を行うことによって判明する。この手法では、収益性はセル毎に異なり、新契約団体全体の収益性はセルの加重平均となる。 このために発生する収益性の内部補助の程度を計量・分析することによって、問題解決のための方法へと導く。新たな保険料算出の概念は「保険料=最良推定保険料+適正利潤」で表されるマージンを外挿する方式である。完全市場における適正利潤は必要資本繰入額と等価であるとみなせることから、EV算出で用いる計算式を活用して、具体的な計算式を提示する。その計算式と実務に近いであろう計算前提を用いて試算した定期保険と終身保険の保険料、収益性、EVを内包方式のものと比較検討する。 具体的な分析手法は、セルごとで外挿方式と内包方式による収益性を比較すること、同じセルポイントおよび新契約団体全体での利益の内部補助の状況を確認することで矛盾点を洗い出す。そして外挿方式が内包方式の問題をどの程度解消しているか計量する。まとめとして、契約者が負担すべき必要資本に係るコスト、剰余の分配の在り方、および今後検討すべき事項を提示する。 これらの結果をアクチュアリー学の複数の学会で発表し、寄せられた意見をもとに稿を完成させ、それぞれの学会誌に投稿する。
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