2014 Fiscal Year Annual Research Report
世代の断絶から捉える実践知の生成継承性に関する発達臨床的研究
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26885102
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Research Institution | Tama University |
Principal Investigator |
竹内 一真 多摩大学, 公私立大学の部局等, 講師 (10737571)
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Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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Keywords | 生成継承性 / 実践知 / 和紙 / 技能継承 / 伝承 / 技能の復活 / 世代間の関係性 / 生成的ライフサイクルモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は主として杉原紙の復活に至るまでのプロセスに関してインタビュー及び参与観察を行った。ライフストーリーインタビューでは杉原紙の復活を実際に行ってきた実践者、復活にあたって技能指導を行った伝承者、それらを役所の立場から支えてきたサポーター、実践者から技能を受け継ぐ2人の後継者という複数の当事者に対してライフストーリーインタビューを行った。特に杉原紙の復活を実際に行ってきた実践者に対して2回のフォーマルインタビュー、同じく2回のインフォーマルインタビューを行い、信頼関係を深めると同時に、研究目的を達成するにあたって必要なデータ収集を行ってきた。 また、ライフストーリーインタビューに行った参与観察では和紙が完成するまでの一連のプロセスに関して観察を行ってきた。楮と呼ばれる和紙の原料の栽培から刈り入れ、楮を紙漉きにまでいくための一連のプロセス、楮を蒸したり、楮の皮をはいだり、川に晒したり、窯で炊いたりするなどの過程を調査した。また、紙すきに関してもどのような形で現在、紙をすいているのか調査するとともに、紙すきの実践者に対してインタビューを行い、コツであったり、習熟の過程であったりに関して話を聞いた。楮の収穫などでは実際に収穫に参加し、その後の収穫祭にも参加するなどした。杉原紙は村全体で和紙作りに関与しているため、村の皆さんがどのような想いを持ち、そして、どのような過程で復活に携わってきたのかということなどに関する話を聞くことができた。 上記以外には杉原紙以外の復活を果たした和紙の伝承者に対してライフストーリーインタビューを行った。鍋野和紙や秋月和紙、大谷地和紙など複数の地域において和紙を復活させた実践者にインタビューを聞くことで、杉原紙の復活の特質や同質性などを明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの達成度としてはおおむね順調に研究が遂行されている。研究計画では初年度に。研究計画書では年度の前半に復興のプロセスについて関係者へのインタビューや資料収集を済ませ、後半に製紙過程の中心となる加工過程を参与観察するとなっていた。また、この参与観察とインタビューのプロセスを通じて要所に実践者に対するライフストーリーインタビューを行うことで、復活を行った当事者である人々の語りを重層的に捉えるということももう一つの目的であった。 実際に申請受理後、10月には調査依頼及び資料収集に着手し、実践者に研究参加への同意を受けた。また、その後は、資料や初回の調査依頼時に分かった復活をサポートした複数の研究協力者にインタビューを行ったり、あるいは実践者や継承者へのライフストーリーインタビューなどを行ったりした。同時に和紙作りの現場での参与観察を行うことで、インタビューと参与観察を重層的に行い、和紙の復活プロセスを立体的に捉えてきた。 一方で、すでに杉原紙は復活して30年以上たっているため、当時精力的に和紙の復活に携わられた一部の方はなくなっていたりするなど、調査に難しいところもあった。また、ライフストーリーインタビューでは当事者の記憶があいまいなところや忘れてしまっていることなどが多数見受けられた。すでに亡くなっている方に対してはそのそばで支えていらっしゃった方にインタビューをしたり、記憶があいまいな方に対しては資料などを持参し、それをきっかけにして話をいただいたりすることで、問題に対処してきた。 上記から、計画と実際の行動を照らし合わせて考えると、部分的にできなかったところもあるものの、当事者との信頼関係や問題への対処を通じておおむね順調に研究は推移しているものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては大きく二つの観点から進めていく。一つ目が申請段階で出した後続世代に対する突っ込んだ形でのライフストーリーインタビューである。昨年度の段階ですでに二人の継承者に対して1回はライフストーリーインタビューを実施している。このライフストーリーインタビューでは特に杉原紙への参与を中心に過去から現在に至るまでのナラティヴデータを得た。今年度は現在から未来というより前に向かうところに関してインタビューを行っていきたい。同時に、昨年度得た参与観察及び復活をおこなった実践者の語りをもとに、それらの語りをどのような形で受け継いでいるのかという世代間の連続性に焦点を当てる。仮に30年前に復活に関わり、現在まで関与してきた実践者を復活第1世代と呼ぶならば、第2世代は第1世代の実践知や経験をどのように受け継いでいるのか、そして、一度断絶したという事実がどのように語りに影響を与えているのかということを明らかにする。 今後の研究の推進方策の2点目としては、他の地域やほかの技芸における断絶から復活に至るまでのプロセスを明らかにするということである。杉原紙は継承するにしてもすでに復活の際には継承している実践者はいなかったといってほぼ間違いない状況であった。そこから復活するということと、例えば、地域にある程度昔当該の技術を使って生計を立てていた実践者がいるというのでは大きく違うものと考えられる。このように、杉原紙の復活の特徴を明らかにするためにも、他の地域や技芸の実践者におけるライフストーリーを収集し、杉原紙の特徴により迫る。また、必要に応じて杉原紙の復活をとげた実践者にさらなるライフストーリーインタビューを行い、語りを深める。 これら2点の研究を推進していくことで杉原紙の断絶から復活に至るまでのプロセスを生成継承性という観点からまとめつつ、論文や発表という形で公表していく。
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