2014 Fiscal Year Annual Research Report
単一サイクル赤外光パルスを用いた強相関電子系の瞬時強電場効果の研究
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26887003
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
川上 洋平 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60731172)
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Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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Keywords | 光誘起相転移 / 超高速分光 / 強相関電子系 |
Outline of Annual Research Achievements |
光電場の振動を一周期以下しか含まない極限的な赤外光パルス(単一サイクル、サブサイクルパルス;パルス幅5フェムト秒(fs)、中心波長1.7μm)の瞬時強電場(>>10 MV/cm)は、多体電子系(強相関電子系)を極端な非平衡状態(衝撃場非平衡)へと導くことができる。本研究では、単一サイクルの高強度、キャリアエンベロープ位相(CEP)安定化光源を開発し、瞬時強電場で電子の運動を瞬時に凍結、秩序化、偏極させることによって、理論的に予測されている電子の局在化(動的局在)、強誘電性、(反)強磁性秩序の増強、負温度状態の生成などを実験的に検証する。 平成26年度は、まず、赤外7 fs(1.5サイクル)パルスを用いた反射型ポンプ-プローブ分光から、電荷秩序系の有機伝導体α-(BEDT-TTF)2I3の高温金属相(転移温度135 K)において、金属→絶縁体転移(動的局在)を観測した[Nature Commun. 5, 5528 (2014)]。絶縁化を反映するスペクトル形状と共に、電荷ギャップのエネルギー(の逆数)に相当する周期20 fsの時間軸振動が現れる。絶縁化の信号は、転移温度近傍、強電場印加の場合に顕著であり、光の高周波強電場によって電子のサイト間移動積分を直接変調することで起こる、電子の局在化(動的局在)を実現したと言える。 さらに、光源の短パルス化(単一サイクル、サブサイクル)と高強度化を目的に光源の改良を行った。光パラメトリック増幅器(OPA)から出力されるCEPが固定されたアイドラー光を、希ガスを充填した中空ファイバーを用いて広帯域化し、チャープミラーと形状可変鏡を併用してパルス圧縮を行っている。アイドラー光の中空ファイバーへの集光条件の見直しによる高強度化(10 → 20 MV/cm)と、形状可変鏡パルス圧縮器の改良による短パルス化(7 fs:1.5サイクル → 6 fs:1.3サイクル)を達成している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
高強度単一サイクルパルス(パルス幅5 fs、瞬時電場強度40 MV/cm)の発生に向けて、平成26~27年度の2年間で、短パルス化と高強度化を段階的に進める計画であった。特に初年度は光源開発に注力する計画であり、申請時と比較して、パルス幅(7 fs:1.5サイクル→ 6 fs:1.3サイクル)、瞬時電場強度(10 → 20 MV/cm)共に性能を向上している。また、オクターブ以上への広帯域化、f-2f位相干渉計を用いたCEP安定性の確認も完了しており、光源開発が順調に進展している。 さらに、平成27年度に実施予定であった、強相関電子系における瞬時強電場効果の検証実験をすでに開始しており、電荷秩序系の有機伝導体において、光の高周波強電場がサイト間の電荷移動積分を変調することで起こる動的局在(α型BEDT-TTF塩:光誘起金属→絶縁体転移、θ型BEDT-TTF塩、TMTTF塩:有効質量の増大)を観測した。特に、α型BEDT-TTF塩における絶縁化は、従来の光誘起絶縁体→金属転移(電荷秩序の融解)とは逆の光誘起現象であり、光による絶縁体-金属間の双方向制御の可能性を示した結果である。 また、系統的な物性実験に向けた準備として、測定光学系の構築も進めている。具体的には、電子状態の変化を検出する過渡反射(ポンプ-プローブ)測定系に加えて、空間反転対称性の破れを検出する第二高調波発生検出系、電子分極の位相緩和時間を検出する縮退四光波混合測定系の構築がほぼ完了している。さらに、ワイヤーグリッド偏光子の導入によって、赤外光のパルス幅に影響を与えること無く、入射光の強度(瞬時電場強度)や偏光の可変制御、光電場の反転(CEPのπ変化)が可能となった。強相関電子系における瞬時強電場効果を検証するための、系統的な物性実験に向けた準備が整いつつある。以上のことから、当初の計画以上に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点ですでに、電荷秩序系のα型BEDT-TTF塩において、10 MV/cmの瞬時強電場を印加した結果、光照射後<50 fsの時間領域でのみ起こる、動的局在による金属→絶縁体転移を観測している。しかし、電荷が局在化する時間スケールを決定づける要因や、電荷の局在パターンに関しては明らかでない。平成27年度前半は、まず、縮退四光波混合による電子分極の位相緩和時間の測定や、反転対称性の破れを検出する第二高調波発生から、絶縁化ダイナミクスの詳細を明らかにする。また、電子-格子相互作用が強いダイマーモット系(κ型BEDT-TTF塩)との比較を行い、有機強相関系における瞬時強電場効果を整理する。 さらに、瞬時強電場によって駆動される多電子の運動を調べるために必要な、位相制御された赤外極短パルスの光源開発を進める。広帯域化条件の最適化(中空ファイバーおよびチャンバーの再設計、集光条件の見直し)とパルス圧縮器の再構築(チャープミラー、形状可変鏡パルス圧縮器の再設計)を行い、本計画の最終目標である単一サイクル(パルス幅5 fs)、瞬時電場強度40 MV/cmの極限的な赤外パルスの発生を目指す。 平成27年度の後半は、40 MV/cmに及ぶ極限的な瞬時強電場が駆動する新奇な極端非平衡状態の実現を試みる。具体的には、有機(BEDT-TTF塩やTMTTF塩)、無機(Co、Cu酸化物などの遷移金属化合物)の強相関電子系物質を対象に系統的な実験を行い、理論的に予測されている負温度状態の生成、強誘電性の発現や(反)強磁性秩序の増強、電子相関を介した光キャリアの増殖や高次高調波発生などを検証する。位相制御された単一サイクル赤外パルスを用いた時間分解分光から、強電場に追随する多電子の運動を位相まで含めて捉え切る。
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Research Products
(8 results)
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[Journal Article] Optical freezing of charge motion in an organic conductor2014
Author(s)
T. Ishikawa, Y. Sagae, Y. Naitoh, Y. Kawakami, H. Itoh, K. Yamamoto, K. Yakushi, H. Kishida, T. Sasaki, S. Ishihara, Y. Tanaka, K. Yonemitsu, S. Iwai
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Journal Title
Nature Communications
Volume: 5
Pages: 5528-1-6
DOI
Peer Reviewed
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