2014 Fiscal Year Annual Research Report
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26887031
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
服部 広大 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (30586087)
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Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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Keywords | 特殊ラグランジュ部分多様体 / トーリック超ケーラー多様体 / 国際情報交換 / イギリス |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,非コンパクト超ケーラー多様体に埋め込まれたコンパクト特殊ラグランジュ部分多様体と,非コンパクト超ケーラー多様体の無限遠における接錐に関して,新しい結果を得ることが出来た. 非コンパクト超ケーラー多様体の重要なクラスのうち,ALE空間と呼ばれるクラスについては性質や構成法が良く知られているが,ALFやALG空間と呼ばれる,ALEよりも空間の広がり方の小さい空間については,系統的な構成が知られていない.しかし,貼り合わせによる解析的な構成法が既に知られており,この手法を研究した.その結果,この手法を特殊ラグランジュ部分多様体の構成に持ち込んだジョイスの結果を使うことで,新しいコンパクト特殊ラグランジュ部分多様体を構成することができた.この結果は,超ケーラー多様体の漸近解析を研究する上で得られた大きな副産物である. ここで構成したコンパクト特殊ラグランジュ部分多様体は,以下の意味で極めて新規性の高いものである.今まで,超ケーラー多様体において知られていたコンパクト特殊ラグランジュ部分多様体の例は全て,正則ラグランジュ部分多様体という代数幾何学的な対象に由来を持つものに限られていたが,本研究で得られた例は,正則ラグランジュ部分多様体から得られるものではない,超越的な対象である.また,ジョイスによって開発された特殊ラグランジュ部分多様体の構成法は一般論であり,それを適用できる例は知られていなかったが,本研究で初めてその具体的適用例を発見したことになる. また,上記の結果と並行して行った研究によって,無限遠における接錐が一意でないような非コンパクト超ケーラー多様体を発見した.そのような例は現在まで知られておらず,コールディングとミニコッチによって証明されたリッチ平坦多様体の無限遠における接錐の一意性定理における仮定が本質的であることを示す意義深い結果である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度に得られた結果によって,超ケーラー多様体上の漸近解析と,それに埋め込まれた特殊部分多様体に対する理解が大きく前進した.その理由は,リッチ平坦多様体であって,無限遠における接錐が一意でないような例は今まで知られていなかったが,本年度得た結果はその存在を示すだけでなく,具体的に明示するという点で,病的な漸近的性質を持つリッチ平坦多様体の様子を分かりやすく捉える事ができたからである.また,超ケーラー多様体において正則ラグランジュ部分多様体が超ケーラーローテーションを介して特殊ラグランジュ部分多様体と見なせることは以前から良く知られていたが,その逆が成立するかどうかは非常に微妙な問題であった.本研究の結果によって,部分多様体にコンパクト性という強い制限を課しても,逆が成立しないことを証明したことになる.従って,超ケーラー多様体における特殊ラグランジュ部分多様体の幾何学は,代数幾何学に収まるものではなく,超越的な対象を含む非常に広い世界であることが判明した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,非コンパクト超ケーラー多様体上の幾何学的性質と,特殊ラグランジュ部分多様体の幾何学的性質と,両方の性質について研究を進める. まず,ALEでない漸近挙動を示す非コンパクト超ケーラー多様体について,その漸近解析や具体的構成法を研究することが一つの目標である.方針としては,超ケーラー商を用いた手法か,貼り合わせなどによる幾何解析的な手法を用いて研究する.超ケーラー商を用いた手法では,ナーム方程式の解のモジュライ空間を調べることが,ALEでない非コンパクト超ケーラー多様体を調べるために役に立つ.特に,モジュライ空間の無限遠における解の挙動を詳しく調べることが重要である.また,トーラスとユークリッド空間の直積をある有限群で割った商空間と,江口・ハンソン空間とを貼り合わせることによって,ALEでない非コンパクト超ケーラー多様体を構成できることが知られており,この手法のある種の一般化を考えることも重要である. 特殊ラグランジュ部分多様体については,本年度に得られた具体例が,モジュライ空間の境界付近を記述する具体例であることがわかっているので,その状況をよく見ることによってモジュライ空間のコンパクト化など,境界の挙動についての理解を深めることが目標である.
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