2014 Fiscal Year Annual Research Report
量子化学計算による環境調和型窒素固定触媒の分子設計
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26888008
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 宏昌 京都大学, 実験と理論計算科学のインタープレイによる触媒・電池の元素戦略研究拠点ユニット, 特定研究員 (20392029)
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Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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Keywords | 計算化学 / 窒素固定 / アンモニア / 触媒反応機構 / 配位子改良 / 反応性向上 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究では,常温常圧の温和な条件下で働く低環境負荷型の窒素固定触媒開発を目指し,密度汎関数法などの量子化学計算を用いて,特に均一系触媒である遷移金属錯体の分子設計と反応性予測を行うことを目的とした.対象としたのは,共同研究を行っている東京大学西林准教授のグループが開発した二核モリブデン錯体である.すでに論文誌に報告済みである,理論計算により明らかにした触媒反応機構をもとに,実験グループとの議論を重ねて錯体に用いる補助配位子の候補をいくつか選定し,触媒反応の鍵となる反応ステップが進みやすくなるかどうかを理論的に検討した. その結果,メトキシ基などの電子供与性置換基を補助配位子に導入することで,最も困難な過程である窒素分子へのプロトン付加が進みやすくなること,また酸化還元能を有するフェロセンを導入することで,アンモニアを生成するステップの逆反応が分子内電子移動により抑制され,反応速度が増大する可能性があることを見出した. 実際に西林グループがそれらの置換基を導入した二核モリブデン錯体を合成し,窒素固定反応を行ったところ,両方の錯体で生成するアンモニア量が2倍以上増加し,フェロセンを導入した錯体では反応の加速が確認された.このように実験グループと連携して,当研究の目的である配位子の設計と反応性予測に基づいた新規触媒合成を行い,窒素固定触媒の性能を向上させることに成功した.現在報告されている錯体触媒のなかで,これらのモリブデン錯体が窒素固定反応において最も高い触媒能を有している.以上の研究成果のうち,前者はすでに J. Am. Chem. Soc. 誌に掲載され,後者は現在論文を改訂中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の遂行にあたり,当初の目的として (1) 窒素固定触媒として働く遷移金属錯体の反応機構解明,(2) 鍵となる反応ステップの促進が期待できる新規配位子の分子設計,(3) 新たに設計した配位子を組み込んだ金属錯体の触媒活性の検討,の 3 つを挙げた.研究実績の概要にも述べたように,電子供与性置換基および酸化還元能を有する置換基を導入した新規配位子を設計し,いくつかの反応ステップの促進が期待できることを理論的に確認した.実験グループがそのような錯体を実際に合成し,従来の錯体を超えた触媒活性を有することを確認した.このことは,実験と理論計算を担当するグループが密接に連携することで,掲げた目的を達成できたことを意味する. 一方で,他のアプローチで設計した配位子を用いた際に,これまでに明らかにした反応機構ではその触媒活性の高さが説明できない金属錯体が得られている.こちらは上記錯体よりもさらに触媒能が高く有望な反応系である.現在実験グループと協議を重ね,いくつかの反応経路の候補を検討している. 以上のことから,研究目的の達成度を「おおむね順調に進展している」と自己評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は錯体を合成し,触媒活性を調べる実験グループとの密接な連携が重要な要素のひとつである.本年度においては非常に良い関係を維持して挙げていた研究目的を達成し,窒素固定能が向上した新規遷移金属-窒素錯体を得ることができた.研究は当初の計画通りに進んでおり,利用しているソフトウェアや計算機の能力にも問題は見られない.したがって,次年度も同様に頻繁な情報交換によって実験と理論計算の緊密な連携を図り,これまで利用してきた計算手法を用いてより触媒活性の高い新規錯体の設計を目指す.
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Research Products
(6 results)