2014 Fiscal Year Annual Research Report
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26890004
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
山下 美鈴(山田美鈴) 筑波大学, 研究推進部, 助教 (90451690)
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Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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Keywords | 生殖 / 受精 / 応用生物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では雌性生殖器内で起こる現象そのものに焦点を当て、生体内の基礎的な受精過程の解明を目指している。これまでの研究成果をもとに、1.子宮、卵管内受精機構の可視化と局在変化の解析、および2.精子セリンプロテアーゼACR/PRSS21が関与する先体反応誘起メカニズムの解明を試みることで、将来に向けた生殖の応用研究に繋げる。平成26年度研究計画では精子ミトコンドリアと先体を蛍光標識したトランスジェニックマウスおよび本研究室で作製した各種遺伝子欠損マウスを用い、雌性生殖器内での精子遡上状況および精子先体先体反応領域の特定を行った。さらに、排卵時における卵管運動が与える精子遡上への影響を、合成鎮痙剤投与によって卵管運動を抑制した状態で検証した。また、精子セリンプロテアーゼPRSS21欠損精子は体外受精能が著しく低下しており、ACR/PRS21ダブル欠損精子は自然交配においても低い産仔数を示すことから、精子プロテアーゼ活性およびその基質による受精機構の寄与が推測された。申請者らの以前の研究で、これら欠損精子では卵子透明帯上での先体反応率の低下が認められている。そこで本研究計画では、カルシウムイオノファの添加による強制的な先体反応誘導処理を行い、先体反応後精子による卵子細胞膜融合能および体外受精能改善の有無を調べた。さらに、精子先体反応時に起きるドラスティックな先体内の各種タンパク質の局在変化について比較を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)子宮、卵管内受精機構の可視化と局在変化の解析 前年度の解析から、蛍光タンパク質で標識したトランスジェニックマウス精子を用い卵管内における射出後精子の移行を実体顕微鏡下で継時的にライブイメージング観察できる系を確立した。卵管内精子の可視化と先体反応誘起機構の解明を目的に研究を行った結果、形態的に8つの領域に区分けしたマウス卵管において、精子は卵管の子宮側3区画まで多数見られ、卵管の遡上とともに減少し、受精の場である卵管膨大部では十数匹程度であることを定量的に示した。また、精子先体反応は主に第6区画で開始することを明らかにした。卵管内の精子の遡上数は、体外受精での受精能の低下が報告されている各種精巣特異的タンパク質欠損精子においても野生型と同様に観察されたことから、自然交配におけるこれら遺伝子欠損精子の正常な産仔数に関与しているものと考えられる。さらに、卵管運動の精子遡上への関与に着目し排卵期マウスへの合成鎮痙剤の連続投与による解析から、卵管の自律神経運動を止めることで精子遡上および受精率に有意に低下することが明らかになった。また、ライブイメージング解析から、卵管各部位ごとに精子輸送パターンの違いを確認している。 2)ACR/PRSS21を介した精子先体反応メカニズムの解明 今回、PRSS21欠損精子のカルシウムイオノファ添加による強制的な先体反応誘導処理が卵子との融合能が優位に改善することを明らかにした。しかし同時に、体外受精における受精能回復には至らないことも示している。また、先体反応時に起こる膜の構造変化に対し、外部から各種リン脂質の添加を行ったところ、一部のリン脂質においてPRSS21欠損精子の精子・卵子膜融合能の増加が見られたことから、精子先体反応時の精子頭部の構造変化はこれまで報告されていた先体内タンパク質だけでなく、構成する脂質まで含め検証する必要を示唆した。
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Strategy for Future Research Activity |
1.先体反応誘起による効率的な生体内受精システムの分子的解析 前年の研究に引き続き、卵管内精子遡上および先体反応誘起メカニズムの解析を進める。卵管各部位における精子運動性を画像解析するとともに、それぞれの画分から卵管内分泌液を回収することで、卵管液に含まれる精子先体反応誘起因子の抽出と同定を試みる。これまでの知見から、精子活性化には多様な分子の関与が示唆されており、その多くが各種ホルモンやペプチド因子を含めた低分子因子である可能性が十分に高いことから、卵管内分泌液より低分子画分を抽出、活性測定を行う。また、近年精子先体反応には環境要因として粘性の関与が指摘されていることから、該当の卵管領域の分泌液の粘度を測定し、精子の運動性および先体反応誘起能の有無を明らかにする予定である。 2.PRSS21のGPIアンカー型タンパク質としての機能と役割 GPIアンカー型の膜タンパク質は、細胞膜上でリン脂質を含むマイクロドメインを形成しシグナル受容体として機能することが知られている。また受精においてもGPIアンカーを切断する酵素処理で精子・卵子ともに融合能力の大幅な低下がみられることが報告されている。前年の研究から、PRSS21欠損精子は強制的な先体反応誘導により融合能の改善が見られたことから、PRSS21タンパク質の融合における機能について検証を試みる。PRSS21の精子先体反応における機能を明らかにするために、現在、活性型および不活性型PRSS21を発現するトランスジェニックマウスの作製を進めており、トランスジェニック個体をPRSS21およびACR/PRSS21欠損と交配させ得られたマウス精子の先体反応性や受精能について解析を行う予定である。
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Research Products
(4 results)