2014 Fiscal Year Annual Research Report
脊髄小脳変性症モデルとなるコモンマーモセットの作出および薬物治療の評価
Project/Area Number |
26890005
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
松崎 泰教 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (50738200)
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Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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Keywords | 脳神経科学 / コモンマーモセット / 脊髄小脳変性症 / 非ヒト霊長類 / AAVベクター / ATXN1 / Ataxin-1 / ポリグルタミン病 |
Outline of Annual Research Achievements |
脊髄小脳変性症は運動失調を主症状とする進行性の難病であり、現在も根治療法が無い。特に常染色体優性遺伝性である脊髄小脳変性症(SCA)では病態解析及び治療法開発が主にモデルマウスを用いて進められている。しかし、マウスとヒトでは種差が大きく、それがマウスで開発された治療法がヒトへ適用されていない理由の一つとなっていると考えられる。そこで、当研究ではヒトにより種として近いコモンマーモセットを用いてSCAモデル非ヒト霊長類を作出し、マウスで開発した治療法が霊長類にも適用可能なのかを探索することを目的とした。 平成26年度ではAAVベクターを用いてマーモセット小脳へのSCA1の疾患遺伝子を導入し、小脳性運動失調を測定するための行動試験を行った。 SCA1型(SCA1)の原因遺伝子である異常型ATXN1をAAV9ベクターに乗せてマーモセット小脳半球へ導入した。ATXN1は遺伝子内にCAGリピート領域が存在しており、これが異常伸張するとSCA1の発症へとつながる。当研究では早期発症、重症化を目指してリピート数を141まで伸張させた。神経細胞特異的に発現させるため、プロモーターはrat Synapsin I(SynI)とminimal CMV(minCMV)配列を組み合わせたSynI-minCMVプロモーターを用いた。 マーモセットにおける小脳性運動失調を測定する機器がこれまで無かったため、新たに作製した。小脳性運動失調が生じると協調運動障害や推尺障害、企図振戦が生じ、物をスムーズに取れなくなることから、モデルマーモセットにケージ外の餌を取らせるテストを遺伝子導入から数ヶ月後にさせたところ、コントロール個体と比べて有意に上手く取れないことが確認でき、SCA1を発症していることが確認できた。これらの成果により、SCAモデルマーモセットの作出に成功し、治療法開発を行う土台を整えることが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は申請書の予定通り、SCA1モデルマーモセットの作出した。 まずSCA1をマーモセットで発症させるため、異常型ATXN1遺伝子を発現させるAAVベクター作製した。ATXN1遺伝子はその中にCAGリピート配列を含んでいるが、これが健常人では35回程度以内に収まっているのに対してSCA1患者では40回以上に伸張していることが分かっており、これがSCA1の原因であると考えられている。当研究ではリピートを141回まで伸張させた。これはCAGリピートが長いほど、早期発症、重症化するためで、マーモセットでも早期発症を目指した。小脳の神経細胞特異的に発現させるため、rat Synapsin I(SynI)にminimal CMV配列(minCMV)を結合させたSynI-minCMVプロモーターを用いた。最終的にSCA1発症用コンストラクトはpAAV-SynI-minCMV-ATXN1[Q141]-WPREとした。また、コントロール用のAAVベクターにはpAAV-SynI-minCMV-GFP-WPREを用いた。 このSCA1発症用AAVベクターをマーモセット小脳内へインジェクションし、数ヶ月経つと日常行動に異常が観察された。そこで、小脳性運動失調を測定する行動試験として、ケージの外にある餌を掴ませるワームキャッチテストを行った結果、コントロールとなるGFP発現マーモセットや他のNon-injectedマーモセットと比較して有意に、餌を掴む失敗回数の増加やそれに伴う餌を掴むまでの時間の遅延が確認できた。これによって小脳性運動失調を呈していることが分かったため、SCA1モデルマーモセットを作出できた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は作出したSCA1モデルマーモセットのさらなる解析と薬物治療を行う計画である。 昨年度行った小脳性運動失調のための行動実験はワームキャッチテストの1種類だけであったため、さらに全身運動能を測るテストや、正確に目標物に触れることが出来るかのタッチパネルテストを行う。これらの実験系は昨年度に構築済みである。 それら複数の行動実験結果を測定した後、化学療法を行い、それらの行動実験結果が回復するかどうかを検討する。 また、SCA1モデルマーモセットの作出にSynI-minCMVプロモーターを用いたが、別の実験からこのプロモーターは小脳核の神経細胞と顆粒細胞に良く発現する可能性が高いことが分かった。これらの細胞もSCA1患者の剖検脳の解析から障害を受けることは分かっているが、最も障害されるとされるプルキンエ細胞での発現が弱いかほとんど観察されなかった。そこでマーモセットのプルキンエ細胞でAAVベクターによって導入した遺伝子を発現させることが分かっているMSCVプロモーターに変更したAAVベクターを作製し、SynI-minCMVプロモーターで作出したSCA1モデルマーモセットと症状の違いや治療効果の違いを平行して検討することを計画している。
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