2014 Fiscal Year Annual Research Report
人口エピディディモソーム(ARTEPS)技術の開発と精子受精能獲得機構の解明
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26893216
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Research Institution | Ibaraki Prefectural University of Health Science |
Principal Investigator |
加藤 侑希 茨城県立医療大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (60733649)
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Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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Keywords | 精子 / 生殖・繁殖 / 受精能獲得 / 人口エピディディモソーム / 不妊治療 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請研究では、精子capacitation (CPN) の分子機構の解明、及び、水溶性(脂質膜非透過性)タンパク質をブタ精子にデリバリーするシステム(ARTEPS; ARTificial EPididymosome技術)の確立を目指した。 [CPNの分子機構の解明] CPNの詳しい分子メカニズムは不明な点が多いが、ROSレベルの上昇と機能タンパク質のチロシンリン酸化が重要であると考えられている。 本研究では、先ず、aldose reductase (AR) とIDPcをCPNに伴いチロシンリン酸化されるタンパク質として新たに同定した。 更に、精子のARは成熟過程で体細胞から付与される外来タンパク質であることが明らかとなった。 また、ARの特異的阻害剤を用いた実験結果より、CPNに伴いARがチロシンリン酸化を受け活性化することで、CPNに深く関係するhyperactivationとROSレベルの上昇が起こることが示唆された。 一方、IDPcはCPNに伴って活性が低下することが判明した。 以上の結果から、ARとIDPcのチロシンリン酸化による活性変化が、NADPHを介した抗酸化ストレス系の働きを低下させ、ROSレベルの上昇の誘導に深く関わっていることが推察された。 [ARTEPS技術の開発] 精子は精巣上体由来の因子がエピディディモソーム(EPS)とよばれるリポソーム小胞によって供給されることで成熟精子となる。この生理的仕組みを模倣して、人工のエピディディモソーム (ARTEPS) による精子へのタンパク質のデリバリーシステムを開発し、人為的に任意の機能を精子に付与できる新しい技術を生み出そうと試みた。 そこでまずは、脂質組成の異なる市販のリポソーム化薬剤 (COATSOME EL series) 数種へARを導入し、その後、調整したリポソームをブタ精子に導入した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
精子のcapacitation (CPN) の分子機構の解明に関しては、当初の予想を上回る成果を上げ、CPNにおける新たなROS産生系を示せた。 本研究で、CPN特異的にチロシンリン酸化されるタンパク質として新たに同定したaldose reductase (AR) とIDPcの機能解析から、両者のチロシンリン酸化による活性変化によって、精子内のNADPHレベルが制御され、それが生理的なROSレベルの調節に結びついて、精子の種々の活性が調節されている可能性が強く示唆された。 更には、チロシンリン酸化したARとIDPcが精子の鞭毛に局在することも明らかとなり、両者は精子がCPNを起こした時に認められる運動性の変化であるhyperactivationにも密接に関与している可能性が示唆された。 これらの新しい知見により、目的であるCPNの分子機構の理解が大きく進んだ。 一方で、研究の進展を受けて、CPNの分子機構の研究に時間と研究費を割かれたこともあり、ARTEPS技術の確立においては最高の封入率を保証する実験条件の検討において計画に若干の遅れが認められる。 研究費も適正に使用し、全体としてみれば、順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、精子がCPNを起こすためには、ROSが適切なタイミングで産生され、またそのレベルが適切に制御されていることが必要であり、精子内ARとIDPcはその調節の中枢を担っていると考えられた。 そこで、両者のチロシンリン酸化部位の同定、また、それらのタンパク質をリン酸化するチロシンキナーゼの同定など更なる機能解析を進め、CPNの分子機構に対する理解を深化させていく予定である。 これと並行して、精子にタンパク質を封入する際の各パラメータを操作し、より簡便に最高の封入率が得られるARTEPS技術の確立を目指す。 そして、その技術を使い、精子に人為的にARやIDPcのようなCPNに深く関わると予想されるタンパク質を導入し、その後の精子の運動性や受精能力を精査していく予定である。 最終的には、精子活性化不全が原因の不妊症や精子凍結保存法など臨床への応用の道を探っていく。
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