2014 Fiscal Year Annual Research Report
ヒト急性心筋梗塞組織における網羅的マイクロRNA解析
Project/Area Number |
26893278
|
Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
垣本 由布 東海大学, 医学部, 助教 (40734166)
|
Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
|
Keywords | マイクロRNA / 急性心筋梗塞 / 解剖組織検体 |
Outline of Annual Research Achievements |
法医解剖で得られた組織検体のmiRNAについて、定量性が担保される保存条件を検討した。心臓左室組織を用い、200nt以下のsmallRNAに注目して分析を行った。 抽出RNAのキャピラリー電気泳動では、40nt以下のmiRNAは、40-200ntのsmallRNAよりもスメア化が起こりにくかった。 凍結組織中の21-106ntのsmallRNA10種について、リアルタイムPCRを行ったところ、死後1日以内に冷蔵保存された症例では、死後1週間までsmallRNAの有意な減少は認めなかった。しかし、42-106ntのsmallRNAは21-23ntのmiRNAよりも検出量の個体差(SD)が大きく、smallRNA間でも長いRNAの方が環境変化の影響を受けやすいことが示唆された。 一方、ホルマリン固定組織を用いたリアルタイムPCRでは、固定期間と極めて高い相関でmiRNAの減少を認めた(R2=0.80-0.98)。しかし21-23ntのmiRNAの減少率は、42-106ntのsmallRNAの減少率のおよそ半分に留まり、長期固定下でも著明な安定性を示した。3年間固定された組織検体においても、miRNAは35サイクル以下の通常増幅範囲内で検出できた。内在性コントロールとなるsmallRNAを含め、各miRNA間での減少率の差を考慮すると、定量解析の対象としてはホルマリン固定3ヶ月以内の標本が望ましいと考えられた。 上記保存条件の急性心筋梗塞組織と健常組織を用い、既知のバイオマーカーmiRNAをリアルタイムPCRで定量した。その結果、miR-499aが患者組織で有意に減少することが確認された。よって解剖で得られた死後組織検体や長期ホルマリン固定組織検体でも、miRNA定量解析は可能であると結論づけた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
網羅的解析前の条件検討を詳細に行った。実際の長期保存サンプルを分析することで、ヒト組織検体におけるmiRNAの安定性について、新たに実用的な知見を得ることができた。 これまでの核酸研究の主流であったDNAやmRNAは、死後分解やホルマリン固定の影響で断片化してしまい、法医解剖検体での定量分析は困難であった。しかし、今回miRNAが死後、ホルマリン固定下でも長期間安定に存在していることが確認され、解剖実務における有用な標的分子としての可能性が示された。 法医学や病理学の教室では、研究に有効活用されないまま長期保管される組織検体も多く、高い安定性を示すmiRNAはそのような埋蔵組織検体に新たな研究利用の道を拓くものでもある。 本研究ではmiRNAの定量性が保たれる一定の条件も明らかとなっており、今後の網羅的定量解析の基盤として十分な研究成果を得ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
サンプリング: 本年度得られた検体保存条件にあった症例を対象とする。各症例の左心房(左心耳)と左心室(自由壁)から、線維化巣や腱索を避けて心筋組織を採取する。組織は凍結およびホルマリン固定にて保存する。症例の分類は、臨床経過、解剖時肉眼所見、染色標本の顕微鏡所見に基づいて行う。 クオリティチェック: キャピラリー電気泳動にて、抽出RNAのクオリティチェックおよびsmallRNA濃度測定を行う。 スクリーニング: 健常例と患者の組織をマイクロアレイで網羅的に解析する。原則として凍結標本での解析を目指すが、症例数が集まらない場合は過去のホルマリン固定組織での解析に挑戦する。 バリデーション: マイクロアレイで変動が見られたmiRNAについて、特異的プライマーを用いたリアルタイムPCRにて発現変動を確認する。 パスウェイ解析: 有意な発現変動が確認されたmiRNA群について、miTALOSを用い機能解析を行う。web解析ツールであるmiTALOSは、KEGGとNCI PIDの2大データベースを基盤とし、さらにTargetScanS、RNA22、PtcTar、PiTa、TargetSpyという5つの標的解析ツールを複合的に利用することで、極めて精度の高いパスウェイ解析が行える。
|