2014 Fiscal Year Annual Research Report
低アディポネクチン血症克服のための新規分泌調節機構の解明-レドックス制御の関与-
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26893335
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Research Institution | Department of Clinical Research, National Hospital Organization Kyoto Medical Center |
Principal Investigator |
松尾 禎之 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター), 糖尿病研究部, 研究員 (50447926)
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Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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Keywords | タンパク質 / レドックス / 分泌 / アディポサイトカイン / 小胞体 |
Outline of Annual Research Achievements |
脂肪細胞の産生するアディポサイトカインの分泌障害・恒常性の破綻は、肥満による代謝制御異常の病態基盤として、様々な疾患の発症・進展に深く関与する。本研究課題では、アディポサイトカインの分泌過程における酸化還元(レドックス)反応を介したタンパク質品質管理機構の実態解明を目的とする。 1. 血中アディポサイトカインレベルと肥満との関連解析 肥満症患者の血中代謝関連マーカー解析に基づき、アディポネクチンとは対照的に肥満により誘導され、組織炎症や繊維化の促進因子として注目されるアディポサイトカインの1つ、トロンボスポンジン1(THBS1/TSP-1)を解析対象に加えた。肥満の進展により、血中アディポネクチンレベルの低下が認められるのに対し、THBS1は、特に女性(n=86)において肥満群で発現が高く、BMI、HbA1c、HOMA-IR等の肥満症・糖尿病指標と正の相関を示した。これらのアディポサイトカインのバランス制御が、肥満に起因する複雑な病態形成に関与する可能性が示唆された。 2. 小胞体におけるアディポサイトカインの分泌制御 マウス3T3-L1細胞を用いて、定法に従い脂肪細胞への分化誘導を行った。小胞体の分子シャペロンやレドックス関連分子について、分化誘導前後の発現量を比較し、分化に伴い発現が上昇する複数の候補分子の同定に成功した。また、遊離脂肪酸を用いた脂肪蓄積モデルにおいて、オレイン酸が脂肪滴形成とともにTHBS1やTGF-β等の組織繊維化に関連する因子を強く誘導することを明らかにした。これらの解析ツールを用いることで、アディポサイトカインの分泌制御に関わる細胞内因子の同定に繋がることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題の研究計画立案時においては、様々な代謝異常を改善する作用をもつアディポネクチンのみを解析対象とした。その後のヒト脂肪組織における遺伝子発現解析(内蔵および皮下脂肪組織の遺伝子プロファイル比較)や、身体パラメータと血中代謝マーカーの関連解析に基づき、肥満の進展や組織炎症の増悪への関与が示唆されるTHBS1を標的分子に加えた。アディポネクチンとTHBS1は、ともにジスルフィド結合を介した多量体を形成することが知られており、こうした高次構造の獲得が生理活性に大きく影響すると考えられている。レドックス制御の観点から、両者に共通、あるいは各々の分子に特異的な調節機構の存在を明らかにすることができれば、代謝関連疾患の複雑な病態生理を理解する上で、新たな分子基盤の構築につながることが期待される。 本課題では、脂肪細胞が産生するアディポサイトカインの分泌マシナリーとして、小胞体に局在するタンパク質に着目した。脂肪細胞分化モデルとして頻用されるマウス3T3-L1細胞を用いて、分化誘導前後の発現比較により、アディポサイトカインの分泌に関与する候補分子の探索を試みた。小胞体におけるタンパク質の品質管理機構やストレス応答経路に関わる分子を中心に、分化に伴うタンパクレベルの変動を検討したところ、分子シャペロンやある種の酸化還元酵素の誘導が観察された。成熟脂肪細胞における大幅な発現上昇は、これらの分子がアディポサイトカインの生合成に関与する可能性を示唆しており、アディポネクチンおよびTHBS1の分泌制御機構を解明する上で重要な手がかりとなり得る。現在これらの分子の発現コンストラクト、およびRNA干渉法による発現抑制系の構築に着手しており、アディポネクチン・THBS1との相互作用の有無、多量体化への影響など包括的な解析に向けた研究の進捗が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
肥満により分泌が低下するアディポネクチン、逆に肥満や炎症により発現が誘導されるTHBS1の2つのアディポサイトカインについて、それらの多量体形成・分泌を制御するレドックス調節機構の存在を明らかにする。また脂肪蓄積を伴うストレス負荷時において、脂肪毒性が生体分子に与える影響を検討する。 1. 3T3-L1細胞を分化誘導因子の添加により脂肪細胞へと分化させ、各タイムポイントにおける分化マーカー、およびレドックス関連分子の発現量の変化を解析し、脂肪細胞の成熟度、アディポサイトカインの分泌量との関連を詳細に検討する。 2. 培養細胞を用いて、アディポネクチンおよびTHBS1の発現系を構築する。成熟脂肪細胞における分泌経路への関与が予想されるレドックス関連分子について、これらのアディポサイトカインの多量体化、分泌への影響を調べる。レドックス関連分子の過剰発現、遺伝子ノックダウンによる効果を明らかにするほか、ジスルフィドを介したアディポサイトカインとの相互作用の有無など、レドックス制御の詳細について検討を行う。 3. 脂肪蓄積による細胞内ストレスが、細胞内レドックス機構や炎症応答に与える影響について解析を行う。特に脂肪酸や過酸化脂質の添加による脂肪毒性のメカニズムを、酸化還元酵素の発現量の変化や酵素活性への影響、炎症シグナル経路の活性化等の観点から明らかにする。抗酸化物質レベルや細胞内カルシウム濃度、ミトコンドリアの膜電位のほか、活性酸素の産生とそれに伴う生体分子の酸化によるダメージについて、各々に特異的なプローブを用いて検討する。
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Research Products
(4 results)
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[Presentation] Sexually dimorphic, fat depot-dependent expression of a fibrogenic adipokine, thrombospondin 1 (THBS1) in human obesity2015
Author(s)
Noriko Satoh-Asahara, Yoshiyuki Matsuo, Masashi Tanaka, Yousuke Sasaki, Hajime Yamakage, Kazuya Muranaka, Iwao Ikai, Hiroaki Hata, Akira Shimatsu, Mayumi Inoue, Tae-Hwa Chun
Organizer
2015 Keystone Symposia Conference, X7: Obesity and the Metabolic Syndrome: Mitochondria and Energy Expenditure
Place of Presentation
Fairmont Chateau Whistler, Whistler, British Columbia
Year and Date
2015-03-22 – 2015-03-27
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[Presentation] Sexually dimorphic, fat depot-dependent expression of a fibrogenic adipokine, thrombospondin 1 (THBS1) in human obesity2014
Author(s)
Yoshiyuki Matsuo, Masashi Tanaka, Yousuke Sasaki, Hajime Yamakage, Kazuya Muranaka, Iwao Ikai, Hiroaki Hata, Akira Shimatsu, Mayumi Inoue, Tae-Hwa Chun, Noriko Satoh-Asahara
Organizer
9th Metabolic Syndrome, Type 2 Diabetes and Atherosclerosis Congress, MSDA2014
Place of Presentation
Kyoto International Conference Center, Kyoto
Year and Date
2014-09-12 – 2014-09-14