Research Abstract |
従来のわれわれの研究により, 各種条件下での関節軟骨の諸病態が相当明瞭に理解されてきたと考えられ, 中でも諸材料にみられる変性所見における共通性や経時性に関する知見は, かなり整理されてきたと思われる. 自然経過による加齢変化としての軟骨細胞及び周辺基質の変化は, 各々の変性の基本をなすと判断されるようになってきたため, 本年度の研究ではこの点を中心に検討することとし, その極めて晩期の状態, すなわち高齢材料での変性壊死, 細胞崩壊への過程さらにはその周囲に及ぼす影響等を, 一層詳細に観察することを目的とした. 従って高齢ラット及び老人の, また対比として変性疾患の代表としての変形性関節症の手術時採取材料を用いて, 電顕的に観察, 検討した. その結果, 細胞内の変性物質と考えられる雲紫状物質が大部分を占め, 破壊寸前の様相を呈するものや, すでに一部細胞膜に破綻がみられ, 細胞周囲に点状物質の散在するものや, これを基質中に放出している様な状態, ひいては細胞の形状をとどめないものまで種々相が認められ, 壊死, 崩壊の一連の過程を理解し得た. 細胞周囲の点状物質については, 軟骨細胞小窩の外側にこれと接してみられ, 細胞との間にある距離をもってはなれて局在するものが多い. 高倍率観察でこの点状物質は種々の形態をとり, 膜で包まれたものやライソゾーム様のもの等がみられ, 破壊細胞の破片であろうと考えられる. これらが基質中に浸潤, 移動し, 近くの小窩周辺に集合したものと思われる. これらの所見は幼時期の細胞ではみられない. そしてライソゾーム中の分解酵素の作用等を考慮すると, これらが基質中に放出された場合, 基質破壊への影響が考えられ興味深い. 変形性関節症でも自家食胞, 脂肪滴, 空胞等がみられ, 老齢ラットの加齢変化と類似するが, 基質中の膠原原線維の様相は, 単なる加齢とはやゝ異なるようである. 今後さらに老化予防の可能性を求めて研究を続けたい.
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