1986 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
61450006
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
青柳 正規 東大, 文学部, 助教授 (40011340)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小佐野 重利 東京大学, 文学部, 助手 (70177210)
中山 典夫 筑波大学, 芸術学系, 助教授 (30137939)
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Keywords | ローマ / 古代浮彫彫刻 / 石棺 / 15世紀ルネッサンス / ピサネルロ / マンテーニャ / 借用 / 転用 |
Research Abstract |
当年度は関連文献の収集および渉猟、それに基づく資料写真の一部作成を実施した。そこから得られた知見と成果は概ね次のようである。15世紀イタリアの芸術家(ピサネルロ,J.ベリーニ,マンテーニャ,ドナテルロ等)たちが知見していた可能性のある古代浮彫彫刻(石棺,建築装飾等)は相当数にのぼると推察される。このことは人文主義者ポッジョ・ブラッチョリーニや考古趣味が昂じてギリシァ,ビザンチン世界にまで旅したチリアコ・ダンコーナの著述、建築家フィラレーテの『建築論』等によってもある程度裏付けうる。古代美術品に由来すると推察される主題,図像表現,形態(あるいはポーズ)を有する15世紀美術作品にあっても、典拠となった古代浮彫作品を特定しえぬ場合が多い。かかる特定の困難さは、15世紀の芸術家が古代美術品から主題を抜きにして図像表現や奇抜な形態のみを巧に借用もしくは転用していることが多いという事情による。E.H.ゴンブリッチが提言した比較照合の二範疇、模倣(イミテーション)と吸収(アシミレーション)を以ってしてもこの困難は拭い難い。更に、そうした図像や形態にしても古代浮彫彫刻の構図から一部もしくは一モチーフのみを切り取ったものが多い。従って直接の影響関係を論ずるには、同種の図像表現やモチーフが別な美術作品形式で古代から連綿と伝承していなかったかどうかを、また両者の間に別な作品(素描や初期版画)が介在していなかったかどうかを検証しなければならない。15世紀芸術家の創作活動に古代浮彫の果した役割は次のように分類される。1)裸体(特に女性)モデルの使用が困難であった世紀前半には人体比例やポーズの研究のために素描の形で模写された。2)情動表現に富む奇抜なポーズや激烈な動勢に注目して、それらを際立たせる主題もしくは構図中に転用。3)浮彫彫刻の密集構図の巧妙さに着想を得た群集表現における人物やモチーフの配置法。4)世紀末に始まる考古学的記録としての模写集成。
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