Research Abstract |
本年度は, (1)日本・朝鮮・中国における技術移転と製品移動に関する研究の基礎的資料として昨年に引き続き, 調査報告書, 雑誌論文等掲載の古代鉄器資料を抽出し, カード化する作業を実施した. その対象は中国は魏晋朝似前の鉄器, 半製品, 鉄素材, 鋳型資料で, 朝鮮は三国時代以前の全鉄製品, 日本は古墳時代を除く, 弥生〜平安時代の鉄器, 素材, 半製品, 鉄錬・鍛治遺跡で, 広島大学文学部考古学研究室所蔵文献を渉猟し, 鉄器資料カードに実測図を付して1点ずつ収録するもので, 昨年度分と合わせると, 中国60%, 朝鮮90%, 日本, 弥生時代90%, 奈良・平安時代70%を収録したが, これは全体の50%以下と推定され, 広島大学所蔵以外の文献について今後作業を継続していく予定である. (2)鉄製品の製作技法の解明の一環として, 宮内庁保管の奈良県大和六号墳出土鉄〓全点の調査を実施し, 成形技法, 鍛接・鍛打の状況をこまかく観察し, 小型鉄〓は棒状素材を加熱鍛打してうすくひきのばしたものと, さらに小型の棒状素材を2枚鍛接したものの二者があり, 大型鉄〓は小型鉄〓を4〜9枚鍛接したもののほかに, 上下に重ねて鍛接したものや, 大小の素材の複数鍛接したものや, 独特の形状に整えるために天地左右折り返しなどかなりバラエティに富むことがあきらかになった. (3)製品移動については中国中原の二条凸帯鋳造斧, 中国東北部の断面梯形鋳造斧の戦国時代以降朝鮮・日本への移動経路・動機などがほぼ推定され, 鋳造品とくに武器・工具類の中原→楽浪郡→日本への時期的移動の実情も明確になった. (4)技術移転については中国古代の高度な製錬技術大系のこうち, その末端の最も簡便な鉄鉱石製錬・鍛治技術を弥生時代に受容し, この基盤に立って6世記末に日本で豊富な砂鉄資源を利用した, 新たな砂鉄製錬技術を成立させたと想定できる.
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