1986 Fiscal Year Annual Research Report
アレクサンドリアのフィロンにおける倫理・政治思想の研究
Project/Area Number |
61510017
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
小川 隆雄 島根大, 法文学部, 助教授 (70108778)
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Keywords | 正義 / 敬虔 / 徳 / 救済者 / 政治家 / 法 / 教育 / 神的知恵 |
Research Abstract |
フィロンは晩年の著作『ヨセフ』の中で、旧約聖書『創世記』第37章から第50章までのいわゆる「ヨセフ物語」を取り上げて、政治家のあるべき姿を読みとろうとしている。フィロンはヨセフ自身が理想的指導者ないし、エジプトの総督であることを明らかにしたと結論し、東方世界の最高の政治的理想、神により指定され、導かれる支配者という理想像がユダヤ人の持つ文書の中にその最も真実の具現化されているのを見ることができる、つまりひとりのユダヤ人が、当時の言葉をもって表現すれば、ユダヤ人の総督であった時代における最高度の体現が与えられている、というのである。このヨセフ像は他の著作、例えば『夢』とは異なるが、ギリシア人の政治哲学の理想はユダヤ人のもっと古い文献から借りてきたものであることを否定することはできない、とする。『フラックス』,『ガイウス』にかいまみられる、当時の理想的君主像をフィロンもまた許容していたことも知ることができる。フィロンは『アブラハム』の中で、それ以前の人物とは異なり、歴史上の人物としてのアブラハムに、教育によって人間の精神その他の能力の活動の完成された実体を認め、徳の完全性の終極に到達する過程を観察する。アブラハムは、「最高最大の徳である敬虔への熱心に満たされて、神と神の戒めに従うことを切望した」(六○)。アブラハムは教育によって、ヤコブは訓練によって、イサクは自然的本性によって成就された徳の象徴である」(五二)が、アブラハムは教育によって、「知性を用いて立ち上がり、見えるものの本性よりすぐれた思惟的本性と、両方の創造者であり統治者である方を眺める」(八八)魂を形成するに至るのである。明らかに、ここにギリシア哲学特にプラトンの哲学の影響を見ることができる。その他10の数を完全数とみなすピュタゴラス派の影響,情念論,感覚論におけるストア派からの影響を見ることができる。二世界の統合を見る。
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