1986 Fiscal Year Annual Research Report
分子間包接現象による誘起振動光学活性の測定とその生体関連化合物への応用
Project/Area Number |
61550552
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
樋口 精一郎 東大, 工学部, 講師 (20011017)
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Keywords | 光学活性 / ラマン光学活性 / 誘起振動光学活性 / ラマン分光法 / シクロデキストリン / タンパク質 / 色素 / 包接現象 |
Research Abstract |
本研究においては、シクロデキストリンやタンパク質のようなキラルな部位をもつ分子とビフェニル構造をもつアゾ色素との間の包接現象により色素分子に誘起される振動光学活性の測定を、左右円偏光に対するラマン散乱強度の差の測定に基くラマン光学活性法(ROA法)により試み、それから構造化学的、生物化学的情報を得ることを目的として研究を行った。まず、色素としてコンゴーレッドとベンゾパープリン4B、キラリティーを与えるものとしてγ-シクロデキストリンの包接系について誘起ROAの測定に成功した。この系のROAでは1300〜1450【cm^(-1)】領域に現われる、見かけ上2本のバンドに関してダブルカップレット信号が観測され、これは、以前のメチルオレンジ-α-シクロデキストリンの場合の結果と一致している。この領域にはN=N伸縮振動とベンゼン環の振動が現われ、最も強いラマンバンドが観測される。また、コンゴーレッドの場合、1155【cm^(-1)】付近(【SO_3^_】伸縮振動)にカップレット信号が見られたことは、メチルオレンジ-α-シクロデキストリンの場合に【SO_3^_】の振動について何も信号が得られなかった亊と対照的で、恐らく【SO_3^_】の空間配置が異なることに起因すると思われる。さらに、キラリティーを与えるものとして牛血清アルブミン、色素をトリパンレッドにした場合にも、バックグラウンドが高いためSIN比は悪いが、1150【cm^(-1)】のPh-N=伸縮振動、1255【cm^(-1)】のベンゼン環の振動について比較的明瞭な信号が得られ、シクロデキストリン包接化合物の場合に最も強いROAを与えたN=N伸縮振動領域には全く信号が見られなかった。これは、この場合のキラリティーがビフェニル構造部分の捩れに基くことを示唆する。このような誘起振動光学活性の測定結果は本研究者らにより初めて観測されたものであり、本研究はその初めての研究を確認すると同時に、それを発展させたものである。
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[Publications] T.Hattori: Journal of Raman Spectroscopy. 17.
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[Publications] 樋口精一郎: 日本化学会誌. 1637-1642 (1986)
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[Publications] 樋口精一郎 著,坪井正道,田中誠之,田隅三生 編: "「赤外・ラマン・振動〔【III】〕ーハイテク時代の基礎技術と応用」ラマン光学活性(ROA)" 南江堂, 10 (1986)