Research Abstract |
胎児外科手術による胎生期疾患の治療の可能性を検討するために, その一つとして昭和61年度より, 妊娠家兎及びその胎児を用いて, 先天性横隔膜ヘルニアのモデル作製実験を行なっている. 昭和62年度は, 前年度に模索した手術手順に従い, 成功率の向上を目的として, 作製回数を増やすとともに, 若干の手術手技の改良を加え, またそれと平行して, 胸腔内流動パラフィンの注入による肺低形成作製をも合わせて行なった. 始めに, モデル作製実験では, 従来の方法で, 全身麻酔下に妊娠家兎を開腹し, その子宮を切開し家兎胎仔の左上肢を子宮外に脱出せしめ, モスキート・ペアンを用いて家兎胎仔の左腋窩部を穿刺して胸腔内より横隔膜を穿破せしめるが, この時, 胎仔の体部保持, モスキート・ペアンの穿刺方向の僅かなずれで, 縦隔臓器の損傷による胎内死亡, 横隔膜穿破部位のずれや未穿破による腹腔内臓器の胸腔内への未脱出等の失敗が見られた. また成功例でも, 脱出臓器が肝の一部のみで肺を圧排するのに不十分であったものも見られた. この点を改善するために, ペアン挿入中に, 胎仔の腹部を助手が手指で圧迫し, 腹腔内臓器の胸腔内への脱出を促した. この操作により, 胃や小腸などそれまで脱出しにくかった臓器もより高率に脱出が見られるようになり, 実際の病態に近づけることができた. 次ぎに, 流動パラフィンの胸腔内注入は, パラフィンの粘度が高いために, 細い針の穿刺は困難であったが, 16G針で注入可能であった. 注入量は, 1〜2mlで注入側肺の圧排が見られたが, 皮下や対側胸腔にも漏れ, いかに正確に注入するかが今後の課題である. 昭和63年度は光顕, 電顕レベルでの肺低形成の病態の検討を引き続き行なうとともに, より大型の動物である山羊を用いて, 同疾患のモデルの作製を試み, 胎仔手術における母体及び胎仔への影響を検討する予定である.
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