Research Abstract |
昨年度に行った歯科用金銀パラジウム合金の唾液中での成分元素の溶出量は合金の組織構造によって異なり, as cast試料と時効処理試料では溶体比処理試料に比べてAgとCuの溶出量が約2倍に増加した. この結果をふまえて, 本年度は唾液の特性を明らかにするためと, 唾液中での金銀パラジウム合金の溶出量のちがいが, Pd-Cu系の規則相やAu-Cu系の規則相の形成によるものか, Ag-Cu系の2相分離析出によるものかを明らかにするために, 歯科用金銀パラジウム合金のベース合金であるAg-8wt%Cu合金, Au-50wt%Cu合金, Pd-46wt%合金の3つの合金を作成した. 各合金は加工, 熱処理, 鋳造を行って, 溶体比処理状態, 時効処理状態, as cast状態, 加工処理状態の組織構造とし, 表面研磨ののち, 耳下線唾液各1mlに, 38°Cで10日間, 無菌で浸漬した. 唾液は毎日交換し, 唾液中のCu量を測定した. その結果, 浸漬第1日目のCuの溶出量はAg-8wt%Cu合金では, 時効処理を行って共晶組織とすると溶体比処理試料の5倍, as cast試料では5.2倍の増加であった. しかし, Au-50wt%Cu合金では時効処理を行って規則相を形成させるとCuの溶出量は溶体化試料の1.7倍, as cast試料では1.9倍の増加にとどまり, Pd-46wt%Cu合金では時効処理を行って規則相を形成させると2倍の溶出量の増加にとどまった. 以上の結果から, 金銀パラジウム合金を時効処理した場合の成分元素の溶出量の増加はAg-Cu系の2相分離析出の寄与が大きいこと, 唾液中での金属の溶出は合金の組織構造のちがいによって大きく左右されることが明らかになった. なお, 本年度の主たる研究計画である生体液に浸漬した歯科用合金の表面状態の観察は, 唾液中での金銀パラジウム合金については, すでに昨年度の研究成果で報告済であり, 血清中での金銀パラジウム合金については現在, 電顕観察中である.
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