Research Abstract |
小児の精緒障害および行動障害を早期に発見し, 有効な対策を検討するために, 国際共同研究を実施し, 小児の情緒行動障害の背景にある生物学的要因, 心理学的要因, 社会学的要因を明らかにする. 日本では東京近郊の8つの小学校に通学中の2,533名の児童を, 中国では北京近郊の6つの小学校に通学中の2,432名の児童を,社会精神医学的研究の調査対象とした. 方法は, Rutterの作成した両親用および教師用の小児行動評価表を用い, 過去一年間の児童の家庭および学校での問題行動についてアンケート調査し, 両国の結果を比較検討した. Rutterの評価基準により行動障害の疑われた児童の比率は, 日本では3.0%, 中国では8.3%であった. 行動障害の内訳は, 両国とも反社会的行動が85%前後と多く, 神経症的行動は7%と低かった. 両国とも行動障害の比率は女児に比し男児で高く, 日本では5.6倍, 中国では4.9倍であった. 日本では1人っ子, 低学年の児童で問題行動が多い傾向があるのに対して, 中国では兄弟数が3人以上と多い児童, 高学年の児童で問題行動が多い傾向があった. 農業の家庭の児童, 片親の家庭の児童で, 問題行動の比率が高い傾向があることは両国で共通していた. さらに, 中国では父親と母親の学歴が低いほど, また両親の子供に対する期待が低いほど, 問題行動が多かった. 教師の評価と両親の評価を比較すると, 多くの項目で教師よりも両親の方がより問題としてとりあげることが多かった. 両者の評価の相関は, 行動面の項目で高く, 情緒面の項目で低く, 両親は行動面だけでなく, より情緒的側面も問題にしていた. 因子分析の結果, 攻撃性の因子は都会よりも山村の児童で, 女児よりも男児で高く, 多動性の因子は男児で高く, 不安の因子は高学年より低学年の児童で, 男児より女児で高く, 言葉の問題は男児で高く, 神経性習癌は高学年より低学年の児童で高かった. 次に, 情緒行動障害の生物学的研究として, 情緒行動障害をもち東京および北京の児童精神科専門施設を受診した児童の脳波を検討した. 視察的な判定の結果, 正常, 境界, 異常の割合は, 東京では61%, 21%, 18%, 北京では87%, 12%, 1%と差がみられた. この差は, 視察的判定基準の差異に基づく可能性が疑われた. そこで, 両国の患児の脳波をコンピュータによる波形認識法を用いて定量化し, 健常児の脳波と比較したところ, 患児ではδ波出現量が多くδ, θ, α波の平均振幅が高い点で両国とも共通しており, 患児では年齢に比して脳波の未成熟が推定された.
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