Research Abstract |
近年の医療技術の進歩に伴い, 慢性疾患を持ったままで生き延びて, 家庭または病院で苦しい末期状態を迎える患者が急増している. そこでホスピスケアが注目され始めているが, いまだわが国ではその緒についたばかりであり, 実地経験の豊かな欧米の看護から学ぶべきところが大きい. なお, 死別や哀悼には文化の相違が色濃く反映するので, 国際比較的観点に立脚した看護研究を行い, わが国に適したホスピスケアを探求する必要がある. 末期から死別後にかけての過程を調査し, 看護の理論と実践に役立てたい. わが国とアメリカ合衆国のホスピスプログラムを比較すると, まず量的に大きな差がある. アメリカ合衆国には, 全米ホスピス協会(NHO)に登録されているものが, 1987年現在1569を数えるが, わが国には, ホスピスないし緩和ケアを標傍する機関や施設は, われわれの調査によるかぎり, 14程度である. また, ケア形態を見ると, アメリカ合衆国の場合, 在宅ケアが30, 6%, 入院ケアが2, 6%, 在宅と入院の両方が58,3%であるのに対して, わが国の場合, 在宅ケアは僅か1機関7%で, 大部分は入院ケア専門病院である. アメリカのホスピスが末期患者をできるだけ家族のもとでケアすることを理想にし, 医師や看護婦やソーシャルワーカーその他の各種医療専門家による訪問活動に力を入れているのに比べると, わが国の場合には, 訪問看護体制の不備が末期患者の家庭復帰を困難にしているために, 病院内ケアに重点をおかざるをえない現状が見られる. 両国とも末期癌患者のケアが多いが, アメリカでは, 患者が原則として自分の病名を知り「ノーコード」(救急蘇生処置の拒否)に署名して, 初めてホスピスケアを受ける契約が成立する. わが国でも, ホスピス入院患者は, 一般病院の癌患者に比べると, 自分の病気を知っている人が多くなっているようだが, 医療者の意識調査では, 病名告知はまだアメリカほどには積極的とは言えない. 両国の国民性の違いが反映されていると見られる. 患者および家族をケアスタッフの一員とみなし, 患者を含めた家族全体をケアの単位と考えるアメリカのホスピスに比べて, わが国の末期ケアは医療者が患者をケアするという伝統的な医療スタイルをとっているところが多い. また, アメリカでは患者の権利に関する意識が高い. ボランティアの意義や役割についての彼我の相違も大きい. 今後の計画として, 死別援助, 看護婦の専門性と能力, 家族のケア役割, 医療費などについて詳しく調査する予定である.
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